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三菱、川重と相次ぐ検査不正「生産優先の企業風土あらわ」識者指摘、閉鎖的な人事見直しを

2022.06.11
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元芝浦工業大教授の安岡孝司氏

元芝浦工業大教授の安岡孝司氏

 三菱電機(東京)、川崎重工業(神戸市中央区)子会社の川重冷熱工業(大阪市)と、製品の検査不正の発覚が続く。1970、80年代から長年顧客を欺いてきた。企業の不正に詳しい元芝浦工業大教授の安岡孝司氏は「製造部門より検査部署の立場が弱い場合が多く、生産優先・偏重で、検査部署をコストとみて軽視する風土がある」と指摘する。

 三菱電機では管理職が不正を指示したケースが全体の1割に上る。川重冷熱では今月7日に解任された社長が約30年間不正を知りながら、是正をしなかった。

 安岡氏は「技術的な問題は指摘できる人が限られ、通報者が特定されやすい。さらに不正の関係者が昇格して、上長や担当役員になると隠蔽(いんぺい)され続ける」と、構造的な問題を挙げた。

 三菱電機では顧客の指定と違う方法で製造し、試験や検査をしたと偽って作成した成績書を顧客に提出するなどしていた。川重冷熱では顧客に求められた能力で試運転をしたように装うため、検査書類に架空のデータを記載し、計測器の目盛りにも細工をした。

 検査軽視の企業風土について、安岡氏は「現場は顧客に言うべきことが言いにくい。会社として(自社の検査方法を説明して納得を得るなど)筋を通し、担当者を守る姿勢が必要なのに、現場任せだったのではないか」と批判した。

 人事の問題も大きい。三菱電機の調査委員会は不正があった拠点について「異動がなく、閉鎖的」と指摘。川重冷熱でも現場で不正が受け継がれていた。

 安岡氏は「部や事業部をまたぐ人事ローテーションは不正防止の基本」と強調。「課長、部長への昇格条件として他部への異動経験をルール化するなどの人事施策の導入が求められる」とし、不正を監視するには、社内で発言力を持つ優秀な人材をうまく配置する必要があると説く。

 相次ぐ検査不正を「ものづくり大国」の劣化とする声もあるが、安岡氏は「劣化というより、古くから続いてきた不正が経営努力やコンプライアンス意識の向上などで発覚し始めた」とみる。「海外最大手の自動車メーカーでも検査不正があり、日本企業だけの問題とは思わないが、周りや上司に忖度(そんたく)して言うべきことを言わないことが美徳とされる文化は日本企業独特かもしれない」(大島光貴)

【やすおか・たかし】1953年生まれ。神戸大大学院、九州大大学院修了。85年富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)。2009~19年、芝浦工業大大学院工学マネジメント研究科教授。著書に「企業不正の研究」「製造現場を守る7箇条 ストップ品質不正」など。

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■三菱電機と川重冷熱工業の検査不正

三菱電機が5月下旬に公表した調査報告書で、神戸や姫路、三田、尼崎など兵庫県関連7拠点を含む計15拠点で101件の不正が新たに判明。不正は1970年代に始まり、県内分は74件。必要な試験をせずに虚偽の検査成績書を作成するなどしていた。川重冷熱工業では今月7日、ビルなどの空調システム用の吸収式冷凍機について、実測していないデータを検査成績書類に記載するなどの不正行為が判明。不正は1984年から1950件行われ、同日解任された社長も約30年前から把握していた。