出身地神戸の関係者ら祝福 ベネチア国際映画祭で黒沢清さん「監督賞」

2020/09/13 07:00

旧グッゲンハイム邸を管理する森本アリさん。「後ろは、映画用に作られた棚だが、あまりに自然になじんでいるので、残してもらった」という=神戸市垂水区塩屋町

 世界三大映画祭の一つ、ベネチア国際映画祭で最高賞に次ぐ「銀獅子賞(監督賞)」に輝いた黒沢清監督の「スパイの妻」は、監督の出身地、神戸を舞台にした初めての時代もの。地元の撮影協力者や同窓生らからも喜びの声が上がっている。 関連ニュース ベネチア映画祭「監督賞」 受賞作主演の蒼井さん、高橋さんの作品への思い ベネチア国際映画祭 黒沢監督作品が「監督賞」受賞 ベネチア国際映画祭 黒沢清監督「神戸でしか撮れないものに仕上がった」 上映前に会見

 「建物に人格があるかのようだ」。試写会で目を見張ったのが神戸市垂水区、旧グッゲンハイム邸を管理・運営する森本アリさん(46)。邸宅は高橋一生さんと蒼井優さんが演じる貿易会社社長夫妻の自宅として印象深く登場する。
 神戸フィルムオフィス代表、松下麻理さん(58)によると当初、同邸は別のシーンに使うことを提案していたが、2019年8月、ロケハンで訪れた黒沢監督が「ここを主人公の邸宅に」と即決。「歴史と共に生活感も感じられる。こんな建物がまだ日本にあったんだと。監督の一目ぼれだったのでは」と松下さん。
 2007年に入居して以来、古い建物の良さ、風合いを生かしつつ保存に努めてきた森本さんは「黒沢監督が私たちの意思をくんでくれた」と誇らしげに振り返る。
 撮影は昨年10月から11月にかけてあった。完成した映画には、陽光に輝く床の傷や一部ペンキがはがれたドアなど、建物の年齢をうかがわせるカットが随所に盛り込まれている。
 美術班が作った書棚など、元々のドアや壁の装飾にあまりになじんでおり、頼んで撮影後も残してもらったという。
 森本さんは実は二十数年来の黒沢映画のファン。邸宅北側のシェアハウスには監督の映画やビデオ専用映画(Vシネマ)のビデオを保管した部屋がある。案内された黒沢監督はうれしそうな、ちょっと恥ずかしそうな様子で、壁に記念のサインをしてくれたという。
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 高橋一生さんが演じる貿易商の会社として使われた旧加藤海運本社ビル(神戸市兵庫区)は、1936(昭和11)年に建設され、これまで人気俳優の菅田将暉さんが主演した映画「アルキメデスの大戦」(2019年)など、数々の作品に登場してきた。
 同社総務課長の大塚臣介さん(44)は「たまたまロケ地に選ばれ、会社の名前がエンドロールに名を連ねている作品が大きな賞に選ばれたことが光栄」と笑顔。「受賞をきっかけに会社の知名度が上がり、ビルがもっとたくさんの作品のロケ地になればうれしい」と期待を寄せる。
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 黒沢監督が通った六甲中・高(現六甲学院中・高)校(神戸市灘区)の古泉肇校長(65)は「卒業生が立派な賞を獲得したことは誇らしい」と祝福した。黒沢監督の在校当時は年に5回ほど、校内で映画上映会が開かれていたという。「この学校に通ったことが映画好きになる土壌を育んだのならうれしい」と頬を緩め、「機会があれば、生徒たちの前で映画づくりの話をしてほしい」と期待を寄せた。
 同校の同窓生で社会保険労務士の山田惠喜さん(64)=神戸市東灘区=は「よく三宮で古い映画を見ていたようだ。いつか直接、会って祝福したい」と喜んだ。(片岡達美、井原尚基)

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