先生の暴力 傍観の果て(6)教員の葛藤 開き直る生徒、手探りの指導
2020/12/18 10:37
神戸新聞NEXT
兵庫県・播州地域の中学校。40代の男性教員が教室で暴れる男子生徒の体をつかむと、その生徒はにらみ返してきた。「はい、それ体罰」。反省する様子もなく、最近は注意しても逆に挑発してくる子が増えた。
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喧嘩(けんか)、喫煙、飲酒…。男性は荒れた学校で「怖い先生」だった。時には手をあげて生徒を抑えてきた。しかし2012年、大阪市立桜宮高校の体罰事件を受け、取り巻く環境が一変する。「話し合いでの指導」を徹底され、男性も体罰で処分された。校長にも問題教員とみなされ、手のひらを返されたように感じた。
男性は「ほかに指導法を知らなかった」と悔やみつつ、開き直り始めた子どもたちが「怖い」と明かす。
指導上、生徒に対する懲戒は一定程度認められるが、教室に立たせるだけで「心に傷を負わせた」と非難されかねない。片や生徒が教員を逆上させて動画を会員制交流サイト(SNS)で拡散しても、教育委員会は犯罪的と確定するまで生徒を出席停止にできない。
男性は悩む。「対処しきれなければ警察へ、と言われる。でも、それは教育の『逃げ』ではないか」
◆
そうした葛藤を、教員の「卵」たちに感じてもらう取り組みも進む。
「生徒の喧嘩を止めるのに、2人の頭を押さえ、互いの額を押しつける」。これは体罰と言えるか?
教員を目指す生徒向けのカリキュラムがある神戸市立須磨翔風高校。この7月、生徒15人が体罰を考える授業に臨んだ。先の問いには「体罰に当たる」との意見が多数を占めた。
生徒らは「額を押しつける行為」は暴力と指摘。その上で、体罰は問題を暴力で解決するしかない「負の連鎖」を生むとした。ただ、男子生徒は言った。「自分はその時に感情的にならないでいられるか。正しい判断はできるだろうか」
◆
「自分だって手を出したくなったことはあります」と、この授業で講師を務めた60代教員が話す。若い頃は聞き分けのない子にいら立つことは多く、怒鳴ることもあった。
吹っ切れたのは阪神・淡路大震災がきっかけという。自身も教え子も被災し、多くの支援を受ける中で「助けてもらわないとできないこともある」と思えた時、初めて肩の力が抜けた。
文部科学省の統計では体罰で懲戒処分された教員は若手より中年以上に多く、培った指導法を変えられないという葛藤がにじむ。
懲らしめるための手段、練習の範囲内、受け止め方次第…。暴力根絶が求められる社会にあっても、教員の暴力を多様な理屈で容認する人がいる。宝塚の事件でも、その風潮が事件の芽を生み、発生後もことの重大性を見過ごさせた。
これから教員になる生徒たちも将来、この課題に直面する。男性講師は伝える。「教員になって思い悩んでも、抱え込まないでほしい。自分が生徒なら、親なら、同僚なら…。違う意見に耳を傾ける姿勢を忘れないでいてください」
(大盛周平、風斗雅博、名倉あかり、安藤文暁)
=おわり=
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