「『産みそびれ』は避けたい」コロナ禍で増える“卵子凍結” 合併症などデメリットも

2022/02/19 18:00

「いつか母親に…」。卵子凍結を選ぶ女性が増えつつある=兵庫県内(撮影・吉田敦史)

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 新型コロナウイルス禍の収束が見えない中、「将来、子どもを持ちたい」という女性らが卵子の凍結保存に関心を寄せている。婚活が思うように進まなかったり、漠然と将来に不安を抱えたりし、将来の妊娠に備えてクリニックを訪れる。(末永陽子)
 放射線や抗がん剤治療は、卵巣や精巣など生殖機能に影響を及ぼすとされ、卵子凍結は、不妊症リスクがあるがん患者らに可能性を残す技術だった。だが、近年は健康な独身女性のニーズが高まっている。
 東京都に住む女性(40)は2年前、卵子を12個凍結した。30代に入ってから婚活を続けてきたが、緊急事態宣言で飲み会やイベントなど出会いの場が激減。家で1人で過ごす時間が長くなり、孤独感も強まった。
 40代を目前に、結婚以上に妊娠への焦りが募っていった。そんな時、ネットで卵子保存バンクの広告が目に入った。「卵子の老化を止められるなら」と決断。採卵前には毎日、卵巣を刺激するホルモン注射が必要だが、在宅勤務になったこともプラスとなった。
 子を持たない生き方や養子縁組を視野に入れたこともある。それでも本音をいえば、「『産みそびれ』は避けたい」だった。
 卵子凍結保存サービスを扱う東京都のバンクでは昨年、問い合わせが1・3倍に伸びたという。将来的に子どもがほしいがパートナーがいない人や、結婚したが2、3年は仕事に専念したい人など、依頼者が抱える事情はさまざま。担当者は「男性に比べて雇用が不安定で、妊娠にはタイムリミットもある。コロナ禍で将来に不安を抱えた女性も多いのでは」とみる。
 ただ、凍結保存しても将来確実に妊娠できるわけではない。日本産科婦人科学会によると、体外受精における分娩(ぶんべん)率は、30歳=約22%、35歳=約19%、40歳=約10%と加齢に伴って低下する。採卵などによる合併症の可能性や、リスクの高い高年齢妊娠・出産につながる恐れなどから、同学会は「推奨しない」との立場を取る。
 卵子凍結を扱う神戸市内のクリニックにも、相談や問い合わせが相次ぐ。2020年はコロナを理由にセミナーが中止になり採卵件数は減少したものの、21年は前年を上回った。同クリニックはカウンセリングに力を入れており、担当医師は「メリットもデメリットも理解してもらった上で選択肢の一つにしてほしい」と呼び掛けている。
【卵子の凍結保存】排卵誘発剤などで卵巣を刺激し、採取した卵子を液体窒素の中で凍らせ、凍結保存する。解凍すれば体外受精が可能で、受精卵を子宮に戻して妊娠、出産を目指すことができる。卵子は細胞膜が弱く、凍らせると染色体が損傷する恐れがあるため、精子や受精卵の凍結に比べて難しかったが、保存液や急速冷凍技術などの改良によって可能になった。

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