麻酔の歴史学べます 神戸に国内唯一の専門博物館 学会運営「患者の安全守る歩みそのもの」
2022/07/24 13:00
「麻酔博物館」を神戸に構えた理由などについて語る武田純三前館長(右)と斎藤繁新館長=神戸市中央区港島中町6(撮影・中西幸大)
国内で唯一、麻酔の歴史を学べる施設が、神戸・ポートアイランドにあるのをご存じだろうか。日本麻酔科学会(事務局・神戸市)が運営し、昨年、大規模改修に伴い展示内容を質・量ともに拡充した「麻酔博物館」。今年6月には館長が交代した。博物館創設にも携わった前館長の武田純三・慶応大名誉教授(73)と、新館長に就任した斎藤繁・群馬大医学部付属病院長(60)に、博物館の歩みや展望などを聞いた。(聞き手・小尾絵生)
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-博物館と日本麻酔科学会事務局はなぜ神戸に?
武田前館長 2008年に東京から事務局を移転した。前事務所が手狭になり、耐震面の問題もあって移転先を探していた。新たに博物館を併設することになっていたので、ある程度の広さが必要だった。都内はコストがかかりすぎるため候補地を探していた時、今も学会でお世話になっている神戸コンベンションビューローの関係者から熱心に誘いを受け、神戸へ移った。
斎藤新館長 毎年開かれる日本麻酔科学会学術集会の会場は、ここ10年では半分が神戸。学会には約1万1千人の来場を見込む。麻酔の機械展示は場所も取るし、会員の交通の便、宿泊場所の確保などを考えると、対応できる場所は限られる。また、麻酔科専門医になる試験もポートアイランド内の大規模ホテルなどが会場になっている。
-そもそも博物館創設の理由は
前館長 日本の近代麻酔の歴史はおよそ70年。博物館の構想が出てきた時は、病院の建て替えや教授の退任とともに昔の物が失われていく時期を迎えていた。私の元にも日本で初めて米国から輸入された麻酔器があった。こうした道具などをどこかに保管する場所を設けたいというのが出発点だった。
最初は何がどれほど残っているのか分からず、博物館の役割は収集・保存・維持の観点で始まった。博物館を作る際には神戸市立博物館に相談に乗ってもらい、大いに助けてもらった。
-昨年の大規模改修の狙いは
前館長 開館から10年がたち、資料の収集は進んだ。今後は展示と啓発に重きを置き、年代やテーマごとに分けるなどレイアウトを変更した。
麻酔の発展は患者の安全を守るための歩みそのもの。手術中、患者が呼吸しているか、酸素が足りているか、心臓が動いているか、誰も見ていない時代があった。今では技術や機械や薬などが進歩して、安全性が飛躍的に高まった。
新館長 麻酔科医の役割を発信していきたい。麻酔科の仕事は内科や外科のようには認知度は高くない。麻酔科医が何をしていて、麻酔がなければどんな大変なことが起きるのか知ってもらえれば、と思う。
現在、小中学生向けのパンフレットを製作している。夏休みの自由研究の題材にしてもらえるような、教育的意義を感じられる場にしていきたい。
【日本麻酔科学会】1954年に設立。会員は麻酔科医約1万4千人で、麻酔科学分野で最大規模の国内学会。事務局の本部機能を神戸市に置く唯一の医療系学会とされる。麻酔科医の役割は手術中の麻酔や呼吸の管理のほか、救急医療や集中治療における患者の全身管理、さまざまな痛みに対する鎮痛療法など幅広い。
■「麻酔博物館」10年の節目に大規模改修
麻酔の歴史や役割を学べる「麻酔博物館」(神戸市中央区港島南町1)では、麻酔器具や関連書籍など約7700点の資料を収蔵している。
同館は2009年に「麻酔資料館」として始まり、11年に展示スペースを1.5倍に拡充して麻酔博物館が開館した。
開館から10年を迎えた21年に大規模改修を実施し、展示物約100点を年代やテーマごとに整理。戦後、麻酔科学が大きく発展した経緯や、機器や薬品の著しい進化が分かる。日本に初めて輸入された麻酔ガスを送る麻酔器の展示もある。
江戸時代に世界で初めて全身麻酔による外科手術を成功させた華岡青洲(はなおかせいしゅう)の業績を紹介するコーナーや、麻酔科医の役割が学べるドラマ仕立てのミニシアターなども新たに設けられた。
神戸キメックセンタービルの3階にあり、午前10時~午後4時。土・日・祝日休館。申し込み不要で一般の見学もできる。日本麻酔科学会TEL078・306・5945(小尾絵生)