双子の子育て、幸せだけどけっこう過酷 記者が感じた多くの困難
2022/08/08 05:30
「最近はオンラインでの多胎家族の交流会が増え、参加しやすくなっている」と話す天羽千恵子さん=神戸市中央区
双子や三つ子などの多胎児を育てる家庭は孤立しやすい。記者(35)も3歳の双子を育てる母親であり、乳幼児期の外出の大変さ、社会とのつながりを持つ難しさを味わってきた。長年、多胎育児支援を続ける「ひょうご多胎ネット」代表の天羽千恵子さん(60)=神戸市西区=は妊娠期からの情報収集や支援団体との接触を呼び掛ける。(小尾絵生)
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多胎児の母親は出産後、体の回復もままならないうちに、複数の子どもたちへの頻回授乳におむつ替え、寝かしつけ、夜泣き対応、家事などに追われ、極度の睡眠不足に陥っていく。
多胎妊娠は早産になりやすく、多胎児の約7割が2500グラム未満の低体重で生まれるとされる。小さく生まれたわが子への心配や経済的不安など精神的負担ものしかかり、特に新生児期は「過酷」のひと言だ。
赤ちゃんの世話で精根尽き果て、外に出たり人と関わったりする体力と気力が奪われていく。多胎家庭はそういった理由などから孤立を深めがちで、虐待リスクの高さも指摘される。
■高いハードル
外出に限っても、親一人で2人、3人の子どもを外に連れ出すハードルは高い。首が据わる生後3~4カ月頃より前ならなおのこと。実際、記者も一人で双子を連れて外出できるようになったのは、生後半年がたってからだった。
例えばエレベーターのないアパート住まいなら、建物の外に出るのが第一の関門。ベビーカーと2人以上の子どもを同時に抱えて階段を下りられないからだ。
街に出れば、双子ベビーカーの幅が広くてエレベーターに乗れなかったり、道のポールが邪魔で通れなかったり。通路の狭いコンビニは「行くのをあきらめた」という声も聞く。歩くようになれば、別々の方向に向かう子どもの安全確保も難しい。
もちろん多胎育児を通じて、何とも言えない幸せを覚える瞬間も少なくない。だが、困難を感じることも多く、多胎育児に優しい社会にはまだ程遠いと言っていい。
■つながりにくく
多胎児を出産する母親はおよそ100人に1人の割合とされ、その人数の少なさから親同士はつながりにくい。
天羽さんは、今では30代になった双子を育てた経験から、支援活動に携わってきた。外出に際して「無理して出てこないでいい」「邪魔」と言われ、落ち込む母親らの相談にも乗ってきた。「多胎児の親は周囲に申し訳ないという思いを抱きながら外出している人も多い。もっと物理的にも、精神的にも、楽に育児ができる社会になってほしい」と訴える。
多胎育児では、経験者の体験談や工夫を知ることも大きな支えになる。兵庫県内には多胎親らでつくるサークルが10団体以上存在している。天羽さんは妊娠期から支援団体などとつながりを持つ大切さを指摘し、「育児を支えてくれる家族とともに交流会に参加するなどして不安を減らし、多胎育児への覚悟を持つ機会にしてほしい」と話している。
◇ ◇
■行政の支援徐々に広がる 育児用品購入補助、ヘルパー派遣など
双子や三つ子などの育児に対し、社会の理解は少しずつ進んでいる。厚生労働省は2020年度、産前・産後サポート事業に多胎妊産婦支援のメニューを創設。兵庫県内でも多胎育児の公的支援が徐々に広がる。
兵庫県は本年度、全国に先駆けて、多胎児家庭の外出時に必要な育児用品の購入やレンタルに対し、2万円を上限に費用の半額を補助する制度を始めた。双子ベビーカー(多人数用も可)▽チャイルドシート(2台まで)▽子ども2人乗せ自転車-のいずれか1件が対象だ。
3歳未満の多胎児を育てていることが条件で、2022年4月~23年3月末までにかかった費用に限られる。県こども政策課は「県独自の予算で多胎家庭に特化した施策は初めて。継続的な取り組みを目指したい」とする。申請方法など詳細は県のホームページで確認できる。
一方、神戸市や宝塚市は、多胎育児経験者による「ピアサポーター」の無料派遣を実施。自宅での育児相談や乳児健診への同行を依頼できる。稲美町は家事育児支援を行う産後のヘルパー派遣事業で、多胎児家庭は3歳前まで無料で利用できる仕組みを導入している。
このほか、多胎情報冊子の配布(明石市、伊丹市など)や、多胎育児教室・交流会の開催(神戸市、尼崎市、姫路市など多数)、妊婦健康診断の補助券を追加交付(赤穂市、三木市など)といったさまざまな取り組みが行われている。
「ひょうご多胎ネット」はホームページで県内の多胎支援事業などを紹介している。(小尾絵生)