パラ柔道・北薗 予期せぬ形で閉ざされたメダル挑戦

2021/08/28 12:26

北薗新光

 初のメダルへの挑戦は予期せぬ形で終わってしまった。視覚障害者で争う東京パラリンピック柔道の日本代表、北薗新光選手(30)=アルケア、神戸市北区出身=は選手村で自動運転バスと接触して負傷し、28日の男子81キロ級を欠場。2人の幼い子どもに勇姿を見せることはかなわなかった。 関連ニュース 「生きててくれてありがとう」 世界の舞台へ続く夢と親孝行 愛情を胸に握るバーベル 東京パラ卓球女子 友野有理の最大の理解者、姉稜子さん 「支える」理学療法士に パラ車いすテニス女子 上地が1回戦快勝

 警視庁月島署によると、事故は26日に東京・晴海の選手村で発生。北薗選手が横断歩道を渡る途中にバスとぶつかり、頭部打撲など全治2週間のけがを負った。
 東京は「三度目の正直」を目指す場所だった。
 ロンドン大会の7位から表彰台を目指した前回のリオデジャネイロ大会。3位決定戦を迎え「気分が悪くなるぐらいガチガチ。人生で一番緊張した」と、大一番で本来の力を出せず、失意に暮れた。
 どん底を救ってくれたのが当時1歳になる前の長女だった。「立ち上がらないと、お父さんとしてかっこ悪い」。情けない姿を見せられないと、稽古を再開した。
 昨春以降、新型コロナウイルスの感染予防をしながら、母校の育英高校を拠点に練習を続けた。
 一つ一つ技を掛けきる。一緒に努力してくれる後輩に言葉で感謝する。成功をつかむため、小さな積み重ねにこだわった。大会前には「結果はコントロールできないが、過程を大事にしてきた」と胸を張った。
 昨春に長男が生まれ、2児の父になった。5歳の長女は北薗選手が柔道家だと分かってはいるが、詳しくは理解していない。
 「父親が好きなことをして一番を目指す。いつか、その道のりを話したい。2人がいたから努力できたと話せる未来が、僕のパワーになっている」
 会場は日本武道館。東京五輪の舞台でもあった。「結果を出さないと努力は『なんのこっちゃ』になる」。勝負師としての決意も口にしていた。
 だが、畳にすら立てなかった。(有島弘記)
【特集ページ】東京パラリンピック2020

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