江戸期の銘酒「千歳」150年ぶり復活 山名酒造「口当たり軽やか、芯がある」

2021/06/05 05:30

江戸時代の銘柄「千歳」の復活に挑戦した、12代目当主の山名洋一朗さん=山名酒造

 兵庫県丹波市市島町上田の酒造会社「山名酒造」が銘酒「千歳(せんさい)」を約150年ぶりに復活させ、新商品として5日から発売する。千歳は同酒造が江戸時代中期の創業から幕末まで使った銘柄。新商品は丹波杜氏(とうじ)が残した手法に倣って天然の発酵菌を使い、木おけで仕込んだ。復活を決めた12代目当主、山名洋一朗さん(30)は「若い人も含め、伝統技法で醸造した逸品を味わってほしい」と話している。(真鍋 愛) 関連ニュース 【写真】蒸した米を加え、「留仕込み」を行う丹波杜氏 【写真】千歳の製造で使われる吉野杉の木おけ 問い合わせ絶えず、懐かしの「酒談義」復活 13年ぶり発売


 同酒造は1716(享保(きょうほう)元)年に創業。千歳は明治の始まりとともに姿を消し、代わりに千から一つ単位が上がった「萬歳(ばんざい)」が造られるようになった。
 時代は移ろい、1991(平成3)年、洋一朗さんの父・純吾さん(60)が11代目当主に。地域に根差す酒造りを目指した純吾さんは97年、銘酒「奥丹波」を立ち上げた。くしくも“万”から“億”に格上げした奥丹波は、同酒造の主力銘柄となった。
 「次にお前が造る酒は“兆”やな」と、冗談交じりに周囲からけしかけられた洋一朗さん。昨年12月に12代目当主となったが、「最初は兆でいろいろ考えていたけど、思い付かなかった」と振り返る。目を付けたのが、約150年前に途絶えた千歳だった。
 丹波杜氏が残した手法をほぼ踏襲して造る千歳は、乳酸を添加する主流の手法「速醸(そくじょう)」を用いず、長年酒蔵で培った天然の発酵菌が出す乳酸に頼る。醸造には通常の約2倍の時間がかかるが、さまざまな発酵菌が醸し出す苦みや酸味、甘みが複雑に絡み合う、味わい深い仕上がりになった。蔵の長い歴史あってこその新商品。原点に立ち返り、あえて千歳と名付けた。
 発酵容器にもこだわった。一般的なほうろうのタンクは用いず、吉野杉の木おけを使った。日本で唯一大型木おけを造る堺市の「ウッドワーク」に、高さ約2メートル、直径約2メートル、2800リットルの酒が入る木おけ2基を発注した。
 構想から商品化まで3年。洋一朗さんは「奥丹波の特長でもある口当たりの軽やかさを残しつつ、味が濃くなっている現代の食卓にも合う、芯がある酒になった」と太鼓判を押す。今回の蔵出しでは、山田錦を50%削って火入れした千歳と、10%だけ削った生原酒「千歳ルネサンス」を販売する。
 洋一朗さんは「蔵で育った発酵菌、培われた職人技を結集して造ったお酒。100年後も飲まれているとうれしい」と話している。
 千歳は四合瓶1980円、千歳ルネサンスは四合瓶1650円、一升瓶3300円。丹波市内の小売店や、同酒造の直売店、オンラインショップなどで買える。同酒造TEL0795・85・0015

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