潜入!たんばファクトリー ものづくりの最前線(4)自転車用タイヤ製造 パナレーサー

2021/08/25 05:30

チューブラーの製造で使われる専用ミシン=パナレーサー

 「乗り心地、耐久性、軽量化を兼ね備えたタイヤで、東京五輪に挑みたい」。自転車男子個人ロードレースの第一人者・増田成幸選手(37)側からの要望は、多岐にわたった。 関連ニュース パナが通期業績下方修正 米EV失速、関税影響も 【パナソニック電材事業】ASEANで存在感示す カンボジア新市場展開 <兵庫県高校駅伝>女子1区、須磨学園の池野が区間賞

 自転車用タイヤなどを製造するパナレーサー(兵庫県丹波市氷上町石生)が下した決断の一つは「タイヤ幅を狭める」こと。「納期まで約半年。限られた時間の中、焦りはありました」。担当者の一人榊敏耶さん(36)が、同社の「チューブラー」製造室で、こう打ち明けてくれた。
 その部屋では、女性従業員が専用ミシンで、チューブを包み込んだ布地のような部材を軽快に縫い合わせていた。プロ選手向けのタイヤを専門に製造する、同社の中枢部門の一つだ。
 一般タイヤの製造工程は、大きく分けて四つ。「秘密の配合」でゴムなどを混ぜ合わせ、パーツに加工。それらを組み合わせた後、熱と圧力を加えて溝などをつくり、検品を経て市場に出る。
 その工程に一手間加えるのが「チューブラー」だ。一般のタイヤはチューブと別々になっているが、チューブラーはタイヤとチューブが一体化しているのが特徴。「独自の技術が必要なんです。ミリ単位の勝負です」と、榊さん。
 増田選手のタイヤはゴム幅を狭めたため、「企業秘密」の製法で、タイヤとチューブを組み合わせるのが、さらに困難になる。許される誤差は、ミリ単位以下。榊さんを中心に何度も微調整を重ね、完成にこぎ着けた。
 通常、プロ使用のタイヤは部材を一部変更するだけでも対応に2、3カ月かかる。増田選手の場合、代表決定前からゴムなどの素材選定を進め、全部署が最優先で製造に当たった。
 それを可能にしたのが、社内の風通しのよさ。従業員が各部門を行き来し、情報交換することで、製品の細かい変化や注文に対応できた。大和竜一社長(56)は「一つの工場で、全ての工程を担っているからこそです」と話す。
 東京五輪開幕翌日の7月24日。増田選手は東京・武蔵野の森公園のスタートラインに立った。途中棄権が相次ぐ中、1都3県を横断する約244キロの過酷なコースを、6時間25分16秒で完走した。(真鍋 愛)
■納期が迫る中で微調整繰り返す チューブラー主任・榊敏耶さん
 増田成幸選手使用のタイヤ製造のため、パナレーサーはプロジェクトチームを立ち上げた。その中核を担ったのが、チューブラー主任の榊敏耶さん。ベテラン従業員らの手を借りながら、部品の縫製から検品まで、一連の作業を担当した。
 高い技術が求められるチューブラー製造。納期が迫る中、「作っては微調整」を繰り返した。メンバーらが、田んぼの脇道を試走。課題などを洗い出し、対策を練った。「夢に出てくるほど、頭はタイヤでいっぱい」だった。
 納品を終えても、心配は尽きなかった。増田選手のレースは自宅で見守った。完走した姿を見て、ようやく人心地がついた。同時に、喜びがこみ上げてきた。
【パナレーサー】松下電器産業(現パナソニック)の子会社「ナショナルタイヤ」として、1952年創業。2015年、パナレーサーに社名変更し、パナソニックグループから離脱。自転車用タイヤ、チューブの国内専業メーカーは同社のみ。従業員数約120人。

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