5人死傷事故「ながら運転」認定、遺族悲痛「殺人と一緒」 厳罰化後も全国で横行
2022/03/06 05:30
神戸新聞NEXT
兵庫県丹波市氷上町賀茂の北近畿豊岡自動車道で昨年4月、5人が死傷した事故で、4日の神戸地裁判決は「ながら運転」が原因と認定した。「私たちにとっては殺人と一緒」。公判で検察官が読み上げた被害者遺族の供述調書には、悲痛な思いがつづられていた。今も横行する「ながら運転」。法廷で明らかになった証拠や供述から事故を振り返る。(那谷享平)
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2021年4月13日午後7時前、北近畿豊岡自動車道。自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪に問われ、禁錮2年4月の実刑判決を言い渡された会社員の男(43)=丹波市=は、ワゴン車を運転し、時速約70キロで北上していた。仕事帰りだった。右手にハンドルを握りながら、左手でスマートフォンを操作し、車内でかける音楽を選んでいた。
現場は片側一車線で見通し良好。男は「周りに車はないと思った」といい、事故直前の「6、7秒くらい」はスマホだけ見ていた。供述通りなら、100メートル以上も前を見ずに運転していた計算になる。顔を上げた時、乗用車が前方約10メートルに迫っていた。
追突された乗用車は道路の左側壁面にぶつかり、反対車線まで跳ね返って停止。そこに対向車が衝突し、乗用車に乗っていた女性=当時(81)=が死亡し、4人が重軽傷を負った。
男は事故について「安全運転の意識が足りなかった」と釈明し、謝罪。弁護側は執行猶予付き判決を求めた。判決では1人が死亡したほか、重い後遺症が残った被害者もいるとし、「結果の重大さに照らすと、服役により責任を果たさせるべき」と断じた。
ながら運転に対し、国も対策を強化してきた。警察庁によると、ながら運転による全国の事故件数は17年が2832件、18年も2790件に上った。19年の道交法改正で懲役刑が追加され、罰金や反則金も増額。これに伴い、20年は1283件と半減した。
ただ、男が公判で「事故以前にも通勤中にスマホを見ながら運転したことがあった」と認めたように、ながら運転は後を絶たない。実際、20年の取り締まり件数は30万件を超えた。
軽率な運転の代償を払わされるのは、落ち度のない被害者。「加害者にはほんの少しの油断かもしれないが、私たちの人生を変えてしまったことを分かっているのか」。検察官の読み上げる遺族の調書に、やり場のない悲嘆と怒りがこもっていた。