深ヨミ

姫路城総合管理室長 石川博樹さん
名城の保存と活用どう両立させる?

2023/06/27 17:15

石川博樹さん(いしかわ・ひろき)1965年兵庫県福崎町生まれ。福崎高校、立命館大産業社会学部卒。87年4月、姫路市に入庁。2011年に姫路城管理事務所副所長、14年に同所長。22年4月から現職。

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 城郭ファンならずとも、その美しいたたずまいに誰もが魅了される。日本に現存する最大の城郭建築で、近世の技術を今に伝える国宝・姫路城。今年12月、世界遺産への登録から30年を迎えるが、観光資源として「確実な保存」と「適正な活用」を両立させるという課題に直面しているという。姫路市に入庁後、長く城関係の業務に携わり、記者たちがひそかに「現代城主」と呼んでいる姫路城総合管理室長の石川博樹さん(58)に聞いた。難しそうな課題ですが、大丈夫ですか。(三島大一郎)



 -コロナ禍の緊急事態宣言では、姫路城も長期間の休城を余儀なくされました。


 「姫路城は平成の大修理を終えた2015年度に年間入城者数が過去最多の286万人を記録しました。翌年度からは減少しましたが、18、19年度は150万人台をキープ。よし、ここから反転攻勢で回復させようと思っていたところに、新型コロナです。20年度は39万人、21年度は44万人に激減。正直、がくぜんとしました。市役所内の雰囲気も暗かったですね。私も当時は城の管理ではなく、観光関連の部署にいたこともあり、市内のホテルなど苦戦する観光業者をどうサポートするかで、頭がいっぱいでした」


 「姫路城を閉めるかどうかについては、庁内で議論がありました。それでも万が一、城が感染源になってしまっては元も子もない。これまで培ってきた城の伝統や威厳を汚してはならないという考えで、関係者が一致し、休城もやむを得ないとなりました」



姫路市姫路城総合管理室室長の石川博樹さん=姫路市本町(撮影・辰巳直之)



 -昨年から水際対策の緩和などで、客足が回復してきました。特にインバウンド、訪日客が目立ちますね。


 「昨年4月に現在の役職に就きましたが、その半年後の秋ごろから流れが変わり始めたように思います。今はインバウンドが盛りですね。平日なら、入城者の半分以上が外国人の時もあります。気がかりなのは、国内客の回復が鈍いこと。以前なら6、7月は団体客が多く、駐車場が大型バスで埋まっていましたが、今年はそうなっていません。コロナ禍を経て、日本人の旅行の形態に変化が起きている可能性があり、専門家の意見も聞きながら対策を考えたいと思っています」


 -さて、今年で世界遺産登録から30年を迎えます。当時の話を聞かせてください。


 「私はまだ20代で、国民健康保険課の窓口業務をしていました。もちろん、姫路城に関する最低限の知識はありましたが、世界遺産についてはよく知りませんでした。1993年12月11日、神戸新聞朝刊に載った『姫路城 世界の遺産に』の記事を見て、すごいことなんだなあと。まだ国内に一つも世界遺産がない時ですから、周りの人たちも似たような反応でした。後から聞いた話ですが、当時の担当者たちは、城が世界遺産に登録されたことを広く啓発することに追われたそうです」


姫路城の世界文化遺産登録決定に沸き立つ関係者=1993年12月10日、姫路市本町



 「実際、姫路城が世界遺産になった影響はそんなに大きくありませんでした。93年度の入城者数は102万人で、前年度から約13万人増えましたが、翌94年度は98万人、95年度は70万人を切りました。とはいえ、地元の城郭が世界から認められたことは素直にうれしかったですし、知名度も上がっていくのではないかという期待感が、時間とともに高まっていきました」


 -近年、国は地域の文化財を観光資源として活用することを積極的に進めています。


 「姫路城では、平成の大修理の際に見学施設『天空の白鷺(しらさぎ)』を設けました。文化財の修理現場を常時公開するという初の取り組みです。今年5月には三の丸広場に設置した仮設劇場で、歌舞伎「平成中村座」の公演も行われ、大勢のファンらでにぎわいました。活用の幅は広がっていると思います」


 「一方で、文化財の汚損や破壊につながらないよう、日頃から現場管理をしっかり進める必要があります。お城への関心を高めるためにも活用に力を入れることは大事ですが、何をやってもいいというわけではありません。まずは保存することが優先。その上で、城の価値が上がるような方法を進めていくべきだと考えています。城の威厳や美しさを損なわないようにすることも大事です」





 -ところで、姫路城に関わる仕事が長くなりましたね。


 「福崎町出身なので、幼稚園や小学校の時から姫路城や隣の動物園によく来ていました。仕事で城に関わるようになったのは、2011年の春、姫路城管理事務所に異動になってからです。城郭に詳しいわけでもなかったので、『なぜ私が城に?』と驚いたことをよく覚えています」


 「現在の姫路城総合管理室は、特別史跡区域の維持管理を行う部署です。お城はもちろん、動物園や好古園も含めて総合的に管理しています。役所生活も37年になりましたが、このうち約3分の1は城関連の業務に従事してきました。やりがいがあり、充実感もありました。一方で世界遺産を管理するという責任の重さから、城から遠ざかりたいと思ったこともあります。定年が近づいた今では、城とのつながりが人生の中で非常に大きな部分を占めていたことを誇りに思っています」




 -2025年、大阪・関西万博が開かれます。どう準備を進めますか。


 「万博には世界中から大勢の人たちが訪れるでしょう。兵庫県が外国人観光客を地域に呼び込む『ひょうごフィールドパビリオン』に、姫路城も参加すると聞いています。姫路城、何より姫路の知名度を上げるきっかけにしたいですね。同時に、国内の来客をしっかり固める必要もあります。そのためには多世代をターゲットにした施策展開が重要です。少し前から、城を訪れた小学6年生以下の子どもを対象に、城の歴史や仕組みなどをクイズ形式で学習できる『自由研究帳』を無料で配っています。毎年問題を入れ替えるなど工夫していますが、これがなかなか好評なんです。こうした城の魅力を幅広く発信できるツールを充実させ、お城好きにアピールする『好循環』を生んでいきたいですね」



【国宝・姫路城】


 1601~09年に初代姫路藩主・池田輝政が築城。内堀、中堀、外堀と3重に囲まれた総構(そうがまえ)の城で総面積は233ヘクタール。甲子園球場の約60倍に当たる。大天守や小天守など国宝8棟、重要文化財74棟を擁し、1993年、法隆寺とともに日本初の世界文化遺産に指定された。2009年から大天守の保存修理工事(平成の修理)が始まり、15年にグランドオープンを迎えた。


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