【40】子どもたちに寄り添う 施設に来て良かったと思えるよう
2018/10/13 10:00
中庭。幼児のプール遊びもここで
8月31日。児童養護施設「尼崎学園」で、恒例の「夜店」があった。駐車場を囲むようにテーブルを並べ、各ユニットが自慢の料理を出店した。お好み焼き、炊き込みご飯、サンドイッチ、フルーツポンチ…。「年に1回のイベントや。腹一杯食べや」。中学3年の太一は誇らしげだ。
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女の子は浴衣で着飾っている。「これ、手縫いのいいやつやで」。薄紫の花柄に、ひらひらとした帯。高校1年の莉子は、少し大人びて見えた。
夜店には道場小学校の教諭らも招待した。会場に到着すると、小学生が歓声を上げて駆け寄った。小学2年の蒼空(そら)は担任の先生に甘え、手を引っ張って出店を回り、何度もお替わりをしていた。
午後5時すぎ、夕立が来て駐車場での催しは撤収。会場を園内のホールに移し、職員が用意したゲームが始まった。
輪投げには景品が用意され、みんな真剣勝負。太一が挑戦する際には、職員がマイクで「学園のアイドルの登場です」とあおった。「たいち、たいち」と大きなコール。幼児から高校生まで。約40人が囲み、一体になって盛り上がった。
午後7時で夜店は終了。お好み焼きを出店した男子ユニットは、部屋に戻ってから残った具材をホットプレートで焼いた。みんな、おなかいっぱいのはずなのに、競って食べていた。
夏が終わり、副園長の鈴木まやが振り返る。「大きなもめ事もなく、静かな夏休みでした」。長期休暇は子どもたちがずっと顔を合わせるため、例年トラブルが絶えなかった。
だが、4年前にユニット制になり、職員が子どもたちのそばで過ごす時間が格段に増えた。一人一人の部屋もでき、それぞれの時間の過ごし方が身についてきた。子どもたちは年々、落ち着いてきたという。
新学期が始まり、尼学に日常が戻った。さまざまな事情で親と暮らせなくなった子どもたち。一日一日を精いっぱい生きる姿に、職員が暖かなまなざしを注ぐ。いつか、こう思ってほしい。学園の暮らし、悪くはなかった、と。
(敬称略、子どもは仮名)
=おわり
(記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当しました)
【尼崎学園】神戸市北区道場町塩田にある児童養護施設。正式名称は「尼崎市尼崎学園」で、通称「尼学(あまがく)」。尼崎市の外郭団体「尼崎市社会福祉事業団」が運営する。戦時中、関西学院の修養道場に尼崎市内の児童が集団疎開し、戦後、関学が同市に土地と建物を提供。戦災孤児や浮浪児らを受け入れてきた。長年、大集団で生活する「大舎(たいしゃ)制」だったが、4年前、生活の場を6人単位の個室がある空間「ユニット制」に移行。個別ケアの充実に努めている。10月12日現在、2歳から19歳までの計37人が暮らしている。