森田雄三さん (68)
演出家/東京都世田谷区
森田雄三さん (68)
演出家/東京都世田谷区
神戸の劇場から被災者を励ましてほしいと依頼されたのは、震災直後のことでした。一緒に芝居を創っていたイッセー尾形と神戸を訪れると、ワークショップの参加者が興味深い話をするんです。
被災地をノロノロと進む満員バスでのこと。乗客はみな疲れて無口だった。その時誰かの携帯が鳴り、初めは小さな声でモゾモゾ喋(しゃべ)っていた人が「そんなに大きくなったか」と叫ぶのが聞こえた。
その瞬間、乗客それぞれが「大きくなったもの」を想像するのが分かったというんです。イライラしていた空気が一変し、連帯感が芽生えた。大きくなったものは「子ども」かもしれない。「孫」や「ペット」もあり得る。何か明るく希望を感じさせるものを、各人各様に想像したんじゃないでしょうか。
ただの喋(しゃべ)り言葉が心に潜む風景を引き出したり、傷を癒やしたりする。これって演劇の本質じゃないかと僕は思うんです。そのことを被災地で教えられた。
それから全国各地でワークショップを開くようになりました。地震に襲われた東北や新潟でも。もちろん原点となった神戸は拠点の一つです。(三津山朋彦)
神戸市北区藤原台中町1、北神区民センター