「安心してや」自慢の兄の思い出胸に 震災23年
2018/01/17 15:40
「兄ちゃん、なんとかやれてるで」。震災で亡くなった兄の永田和夫さんを思い、今年も東遊園地を訪れた永田節夫さん=17日午前6時2分、神戸市中央区加納町6(撮影・吉田敦史)
兄ちゃんに会いたい-。神戸市中央区の永田節夫さん(76)は阪神・淡路大震災で兄和夫さん=当時(58)=を亡くした。兵庫県庁の近くで父の代から半世紀以上続く洋服店に勤め、就職祝いには高級なスーツを仕立ててくれた自慢の兄だった。快活で優しかった和夫さんの面影を胸に描き、永田さんは今年も神戸・三宮の東遊園地に並んだ竹灯籠の前で手を合わせた。
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和夫さんは6人きょうだいの三男。年下の永田さんを、子どものころから気に掛けてくれていた。高校卒業後は実家の「永田洋服店」で働き、その傍ら三宮でラウンジ「ムーンリバー」をオープンさせるなど、抜きんでた商才も見せた。
あの日、永田さんは同市東灘区で被災。聞いたことのない「ゴオオオ」という地鳴りと、すさまじい揺れだった。永田さんは無事だったが、和夫さんと連絡が取れなくなった。
神戸市中央区にあった実家の店舗兼住宅は全壊。夕方、ようやく外に出された兄の遺体は眠っているようで、亡くなっているように見えなかった。「おい、起きんかいや」。思わず声を掛けた。涙が止まらなかった。
今でも、温和で誰とでも仲良くしていた兄の記憶がよみがえる。永田さんの就職祝いに、若者に不釣り合いなほどの高級生地でスーツを仕立ててくれたこと。ムーンリバーで笑い合いながら酒を酌み交わしたこと。兄に関する全てが、永田さんの大切な思い出だ。
永田さんは毎年、この日に欠かさず東遊園地に足を運ぶ。6人きょうだいのうち、3人の兄は既に他界した。「天国で仲良く酒盛りでもしてるんちゃうかな。昔は涙が枯れるまで泣いたけど、兄ちゃんには『なんとかやれてるで。安心してや』と伝えました」と優しい笑みを浮かべた。(杉山雅崇)