イカナゴ不漁の影ここにも…挑む、イワシの魚醤造り 人気の品、明石の風土に仕上がり委ね 茨木酒造×たなか屋
2022/10/29 05:30
イワシで魚醬をつくる田中泰樹さん(右)や茨木幹人さん(右から2人目)=明石市魚住町西岡
魚の棚商店街の発酵醸造食品販賣所(はんばいしょ)たなか屋(兵庫県明石市本町1)と茨木酒造(同市魚住町西岡)が、イワシを用いた魚醤(ぎょしょう)造りに乗り出した。イカナゴの魚醤を手掛けて親しまれてきたが、材料が手に入りにくくなったため、切り替えた。早ければ来年夏にも店頭に並ぶ。(長尾亮太)
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魚醤を造り始めた2006年当時、明石市内のイカナゴ漁獲量は21年の10倍あった。くぎ煮の材料に使われるシンコ(稚魚)と比べ、フルセ(成魚)は引き合いが少ないのを見て、たなか屋社長の田中泰樹さん(54)がフルセでの魚醤造りを思い立った。
取引先の茨木酒造社長、茨木幹人さん(42)に相談し、魚醤造りがスタートした。できた魚醤はたなか屋のほか、明石駅近くのスーパー、兵庫県の物産品店などで販売してきた。
20年9月に魚醤の在庫が尽きかけたため、ほかの魚での製造に踏み切った。シラスで仕込んだが、「上品な味わいになった半面、個性は控えめだった」(田中さん)。そこで今回は、酵素を多く持っており発酵によってうまみが出やすいと見込んだカタクチイワシの成魚を用いた。
先月下旬、明石海峡近くで取れたばかりのイワシ1トン分が茨木酒造に運び込まれ、両社の関係者5人が仕込み作業をした。7、8センチのイワシを20キロずつ台に載せ、決められた量の塩をまぶしてタンクへ移した。今後はタンクの中を棒でかき混ぜたり、魚の脂を取り除いたりしながら発酵させる。ほとんど液体になった段階で、布などでこして骨やうろこなどの固形分を取り除き、瓶詰めする。
田中さんと茨木さんは「魚と塩だけを原材料に使い、発酵が進むのを時間に任せたい。気温など明石の風土に左右されながら、どんな味に仕上がるのか楽しみ」と話している。
【魚醤(ぎょしょう)】魚を塩に漬け込み、発酵させて造る。魚が持つ消化酵素などによってタンパク質が分解され、独特のうまみが生まれる。国内では秋田のしょっつる、能登半島のいしる、香川のいかなご醤油が「三大魚醤」と呼ばれる。海外ではタイのナンプラー、ベトナムのニョクマム、イタリアのコラトゥーラなどが知られる。