応援した漫画家が実は… 不思議な縁で実現したイラスト原画展 本山のブックカフェで6月末まで

2022/05/26 16:11

漫画や風景のイラストなど、ウルムが預かっている小島武さんの作品=神戸市東灘区本山北町3

 レコードジャケットや雑誌、書籍の挿絵を幅広く手掛けたイラストレーター、小島武さん(1940~2009年)。関係者が保管していた原画、下絵約100点が、JR摂津本山駅前にあるブックカフェで展示されている。店主の男性は生前の小島さんとの接点はなかったが、不思議な縁でつながっていた。(井上太郎) 関連ニュース 刊行から28年…「鎌倉殿」効果で漫画版「吾妻鏡」の売り上げ急増 出版社も驚き「異例です」 「今すぐ帰って休め」 現代の過酷な労働環境に一石を投じる風刺漫画が話題に 【漫画】「令和の若者の価値観、イイ!」ゴミを落とした中学生、その後の行動が爽やかすぎた 「ナイスだ少年」「最高にかっこいい」

■沢木耕太郎作品の表紙も
 鉛筆の線や濃淡を使いこなして漫画チックに表現した小島さん。小室等さんのレコードジャケットから作家沢木耕太郎さんの書籍の表紙、米国の人気男性誌「エスクァイア」日本版の挿絵まで、幅広い分野で使われ、多作で知られた。
 その原画展が、ブックカフェ「ウルム」(神戸市東灘区本山北町3)で開かれている。小島さんの作品集の出版記念として今年5月、東京、茨城、島根、兵庫の4都県5カ所で同時開催された。関西会場はウルムだけだ。
 主にA4判からA2判の大きさの原画を展示。ニューヨークのタイムズスクエアを背にしたジェームズ・ディーンの肖像、雑誌「ニューミュージック・マガジン」に掲載された漫画などがそろう。
 エッセー「チェーン・スモーキング」の表紙になった空港のイラストをはじめとした沢木作品のほか、劇作家別役実さん向けの原画は店にあった実際の本と並べて紹介。店主の浜田義行さん(64)=芦屋市=は「ちょうど蔵書の路線とどんぴしゃで」と誇らしげに作品を眺める。
 原画展は、思いがけない打診から実現した。
■漫画家の父はあの装丁作家
 ウルムは駅北側の線路沿いに立つ6階建てビルの2階の一室にある。約50平方メートルに全15席で、壁面の本棚には哲学書やノンフィクション作品など約3千冊が並ぶ。古本として販売し、カレーなどの軽食も提供する。
 本は全て、浜田さんの自宅から移したものだ。機械メーカーを定年退職した読書家の浜田さんは「自宅にもう本の置き場がない」と、2019年10月にウルムをオープンした。
 「静かに本の世界に浸る楽しみはもちろんですが、おじいちゃんと孫ぐらい年が離れた人同士でも語り合い、学びを得られる寺子屋のような場にしていきたい」と浜田さん。開業のわずか半年後からコロナ禍に見舞われたが、ネパール人の大学教授やアフリカの民族楽器の奏者などさまざまな人が訪れ、足しげく通ってくれた。
 そんな個性豊かな常連客の一人に、近所に住む若手の漫画家がいた。編集者を介さず製本まで自分で完結させる、木村さくらさんというその漫画家のポリシーに、浜田さんは好感を持った。店に作品を置いて販売し、個展も企画して発信を後押しした。
 昨年4月、浜田さんの元に突然、小島さんの関係者からメールが届いた。その人は小島さんの盟友とも言える装丁作家、平野甲賀さんの妻だった。平野さんは小島さんの没後、作品の多くを預かっていたが、昨年3月に亡くなったという。
 「いつもさくらがお世話になっております」
 本人は一切口にしなかったというが、木村さんは平野さんの娘だった。夫の親友だった小島武さんの原画展をウルムでもやってくれないか、という依頼だった。
 「詳しいいきさつは分かりません。とにかく驚いたけど、素直にうれしかったですね」と浜田さん。小島さんとの面識はないが、自分の青春を過ごした1960~70年代のカルチャーをけん引したイラストレーターを紹介できるのは光栄だった。
 平野さんがほぼ全ての装丁に関わり、独特の「描き文字」がトレードマークだった晶文社の本も愛読していたので、断る理由はなかった。
■友人たちの思い
 原画は何回かに分けて段ボールで届いた。鉛筆だけで書かれたラフ画から、色を付けて仕上げたものまでさまざま。中には漫画用の枠だけを手書きしたような紙も入っていた。店の大きさを考えると全部は飾れなさそうなので、浜田さんが厳選して額装した。
 これらの原画は、小島さんの原画展を昨年開催した京都市の「京都dddギャラリー」への寄贈が一度検討されたという。だが結局、寄贈は見送られた。
 大手の美術館に所蔵すると数年周期でしか披露できない可能性があるためで、「できる限り人の目に触れるようにしたい」と平野さんたちが考えたのだと、浜田さんは聞いた。
 そうして、原画が神戸にもやって来た。「不思議な縁で預かった貴重な作品。たくさんの人に見てもらって小島さんのこと、作品のこと、この時代のことを知ってもらい、語り合えたらいいなと思う」
 6月30日まで。木曜~日曜の午前11時45分~午後6時営業。ウルムTEL070・1763・8232

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