神戸「さんちか」リニューアルへ営業終了 流行支え56年 「1、2番街」16店閉店

2022/04/10 20:15

買い物客でにぎわう営業最終日の2番街=神戸市中央区のさんちか

 神戸・三宮の地下街「さんちか」の1、2番街がリニューアルのため、3月末でいったん営業を終えた。合わせて閉店、廃業する店も多く、終了前の数日間は親しんできた常連客らが詰め掛けた。神戸の街の中心で、流行を支えてきた1、2番街。開業から56年の区切りとなる最終日の風景を追った。(竜門和諒) 関連ニュース さんちか1、2番街、3年間の休業に 1日通行15万人 半数の店が撤退・廃業 三宮からまた一つ書店が消える 神戸阪急の紀伊國屋書店 神戸の瓦せんべい「菊水総本店」閉店 建物老朽化で150年の歴史に幕

 さんちかは1965(昭和40)年10月にオープン。当初は1日約20万人の客でにぎわった。一方で老朽化が進んだことなどから、神戸市と管理運営会社は、三宮再整備の一環で大規模リニューアルを計画。1、2番街は4月から3年間休業することになった。
 1、2番街では、婦人服や雑貨の販売店、喫茶店など計29店が営業。13店は4月以降も近くの3番街などに移って営業を続けるが、16店は3月末での閉店を決めた。
■いつも通りで
 3月31日午前9時半、さんちか開業当初から営業する「靴の中川屋」の店長藤本博一さん(67)がモップを手に掃除に励んでいた。手際がいい。「最終日やけどいつも通りや」
 藤本さんは愛媛県出身。高校卒業と同時にスポーツバッグ一つで神戸に出てきた。高校時代にも靴屋でアルバイトをした靴好きで、1977年から中川屋で働く。「バブルの時はすごかったで。1日で1千万円近く売れた日もあった。考えられへんやろ?」。44年間の記憶がよみがえる。
 午前10時、さんちかのテーマソング「風に乗って」が流れた。ガラスの扉が開く。店内はすぐ買い物客でいっぱいになった。
 「寂しいなあ」「元気でな」。常連客が次々と声を掛ける。70代の男性は「藤本さんは顔と体格を見ただけで足のサイズと形が分かる。こんな人はほかに探されへん」と残念がった。
■目新しさを
 昼下がり。すれ違う人々の肩がぶつかるほど込み合っていた。
 神戸市北区の岡本藤清さん(75)、智枝子さん(75)夫婦は、この日が最終日と知って訪れた。「毎日通勤で、さんちかの横を歩いた。当たり前の光景だった」と藤清さん。智枝子さんも「よくお友達と買い物に来ました」と寂しそう。
 智枝子さんがバッグを買った「サンワ」で、店主の與田美登里さん(72)が商品を並べていた。
 サンワは41年、亡き父、福田次男さんが「三和商会」として同市長田区で創業した。戦後、東京・新宿や名古屋、横浜など全国に約10店を展開。さんちかでは開業当初から店を構える。
 バブル崩壊による経営悪化で店舗数を減らし、現在はさんちかの店のみ。美登里さんは夫の故美津男さんと二人三脚で店頭に立ち、主に仕入れを担ってきた。
 こだわったのは、目新しさ。2カ月ごとに上京し、原宿や代官山、銀座などを歩き、流行を確かめた。
 「ほかにはないしゃれた物を、お手頃に。神戸の人の目は厳しいんです」
 新型コロナウイルスの感染拡大後は東京に行きにくくなり、客足は遠のいた。「続けて」と望む声も多かったが、閉店を決めた。
■笑って迎えた日
 午後6時半、通路が交わる「夢広場」を通ると、そばのラジオ関西「さんちかサテライトスタジオ」で最後の放送中。ファンがガラス越しに見守り、通行人も立ち止まる。二重三重の人の輪ができた。オンエアが終わると、拍手が響いた。
 67年に放送を始め、サテスタの愛称で親しまれた。最後にパーソナリティーを務めた安部翔子さんは「通行人を指名し、クイズに答えてもらったこともある。視聴者と一緒に番組を作ってきた場所」とファンからの手紙を握りしめた。
 午後7時。いつもより多くの客があちこちの店に残っていた。「サンワ」では陳列棚に隙間が目立つ。美登里さんは「笑いながらこの日を迎えられた。売る物がなくなるのは、幸せなことですよね」と晴れやかな表情で店を見回した。
 午後8時。出入り口のガラス扉に閉店を知らせる札が掲げられた。中川屋の藤本さんは最後の女性客を見送り、一息ついた。
 「120%やりきって、満足感でいっぱい。何の悔いもない」。隣接店の従業員一人一人に声を掛け、花束を抱えて店を後にした。

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