■ボクシング小僧
野中悠樹選手はとんでもない男である。国内男子史上最年長の43歳で、世界ボクシング機構(WBO)アジア・パシフィック・ミドル級の王者。現在、世界ランキング14位。その魅力に迫ろうと4月に取材を始めた。この間を振り返ると、同世代としての共感と感嘆の連続だったように感じる。
共感でいえば、「がんばれ元気」など影響を受けたという漫画はタイトルを聞くだけでピンと来た。ともに1990年代半ばに青春期を迎え、バブル経済こそ崩壊していたものの、「諦め」ではなく、素直に「夢」や「希望」に熱くなれた季節だった。
彼は10代の頃、サッカーやバンド活動などに取り組んでいた。ただ、熱くなれたのかどうかとなると、話を聞きながらもどかしく思うこともあり、「19歳でボクシングを始めたのは、本気で打ち込めるものが欲しかったからではないか」と、しつこく聞いてしまった。
感嘆したのは、その人柄だ。取材後はいつも最寄り駅まで車で送ってくれ、運転席から降りて一礼する。私は毎回、恐縮していた。
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