(10)最期は家 わがままですか?

2019/12/19 09:26

救急隊員に宛てた手書きのメモ=姫路市

 「私は70歳の1人暮らしです。夫と長男は18年前に病気で亡くしました」。この秋、こう書かれた手紙が取材班に届いた。 関連ニュース (1)語り尽くした「最期」 (24)最期の姿はメッセージ (14)最期の日々 2人きりの会話

 「今年の3月に悪性腫瘍の告知を受けました。膵(すい)臓がんで転移も複数。手術は不可能で完治は望めず」。延命治療は拒み、緩和ケアのみ希望するとし、「出来(でき)る限り在宅で」とつづられている。
 10月、私たちは差出人の小西明子さん=仮名=に会うため、姫路に向かった。
     ◇     ◇
 ショートカットで、ほっそりとした女性が迎えてくれる。「20歳で結婚してから、50年住んでいる」という一軒家。和室で向かい合い、病気の経過から教えてもらう。
 今春、主治医に余命を尋ねた時のこと。はっきりとした答えはなかったが、「1年ぐらい」と理解したという。
 それから、兵庫医科大への献体の登録や墓じまいなどの終活を進めてきた。今は抗がん剤を飲みつつ、衣料品を袋詰めする内職や趣味の絵手紙を続けているそうだ。
 冷蔵庫に張られたはがきサイズのメモを見せてもらう。救急隊員に宛てて書いた。「延命治療は望みません」と意思表示している。
 終始、穏やかに話をしてくれる小西さんに「孤独死への不安はありませんか」と聞いてみる。「独りで亡くなってもそれも運命。夜に亡くなっていても、この隣保では午前中に発見してくれるはずです」と返ってきた。近所の2軒には「雨戸が開かなかったり、洗濯物が干しっぱなしだったりしたら、気付いてね」と頼んであるという。
 突然死は想定内。ただ、「在宅で誰かにみとってもらえたら、理想です」と小西さん。一方で「独りやし、無理かな」とも。話すうちに言葉が熱を帯びていった。
 「寝たきりになっても家にいたい。入院した時に思ったんです。病院は風が入ってこない。時間の流れがなくて、生きている感じがしません。私は、家におりたい」
     ◇     ◇
 11月末、再び小西さんの家を訪ねる。「今年で最後かな」と思いつつ冬を過ごしているという。甘酒を仕込んでスダチのジャムを作って。「家で亡くなれたらいいけれど、人に迷惑は掛けたくありません。家におりたいっていうのは最後のわがままかな」
 わがままなんだろうか? そんなことはないはずだ。明快な回答を聞きたくて、私たちは1人の医師を訪ねた。

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