(5)発症遅らせるにはどんな運動がいい?
2018/04/17 18:20
神戸大大学院保健学研究科の小野玲准教授=神戸市須磨区友が丘7
認知症について、神戸大教授らに対策を聞くこのシリーズでは、認知症の特性や発症後に起きる脳機能の変化などを取り上げてきました。さて、発症を遅らせるには適度な運動がよいと聞きます。神戸大大学院保健学研究科の小野玲准教授(45)に運動と認知機能の関係について聞きました。(聞き手・貝原加奈)
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■少しきつい程度の有酸素運動を
-認知機能を維持したり、高めたりするための運動はありますか。
「運動には大きく分けて2種類あります。筋力トレーニングなどの無酸素運動と、はや歩きや水中ウオーキングなど汗をじわっとかくぐらいの有酸素運動です。有酸素運動の方が、記憶や注意機能などの認知機能の低下予防につながるとの研究報告が多く上がっています」
-どうしてでしょうか。
「運動は神経の炎症を抑えたり、新しい血管を作ったりするなど、記憶をつかさどる脳の海馬(かいば)に悪影響を与えるものを抑える重要な役割を担っています。糖尿病や高血圧など生活習慣病のリスクが下がるため、間接的に認知症発症のリスク要因を減らすとも言えます」
「運動が、認知機能の維持や向上に直接影響しているかどうかはよく分かっていませんが、よい影響があることは間違いないでしょう。薬と違い副作用がないので、足腰が痛くなったり、転んだりしない程度に取り入れてもらいたいです」
-どの程度の有酸素運動をするのが効果的ですか。
「運動の強さの程度は、あまり楽すぎても、反対に負荷を掛けすぎてもよくありません。感覚的には『少しきついな』と感じる手前でしょうか。ウオーキングなら、おしゃべりしながら続けられるぐらいのペースです。肩で息をするほどハードになると無酸素運動になります。体に無理のない程度に、少しずつ時間や速さなど負荷を調整してください」
-目安はありますか。
「同じ運動でも人によって負荷や強度が違うので、効果的な有酸素運動をするには、酸素の摂取量と連動する心拍数を目安にします。大体、最大心拍数から安静時の心拍数を引いた数の50~70%(表参照)に、安静時の心拍数を足した数がちょうどよい数になります」
-具体的には?
「個人差はありますが、はや歩きやサイクリング、水泳などでしょうか。日頃から強めの運動に慣れている人は、息が切れない程度のランニングなどもよいでしょう。反対に足腰が弱っている人は、筋力トレーニングをして動ける体をつくった上でやること。膝を曲げたり伸ばしたりするための大腿(だいたい)四頭筋を無理のないように鍛えてください」
-認知機能の維持や改善に、より効果的な運動方法はありますか。
「最近の研究では、踏み台で上り下りしながらしりとりをしたり、友達とおしゃべりしながら歩いたりするなど、有酸素運動と他の課題を組み合わせることがより効果的と言われ始め、『二重課題運動』と呼んでいます。研究室でも、地域の高齢者に継続的に二重課題運動に取り組んでもらい、一定の成果を得ています。ただ、決して運動だけをしていればいいわけではなく、食事などの生活習慣にも気を付けてください」
-新しく分かったことはありますか。
「毎日のようにウオーキングをするなど運動に気をとられがちですが、最近では、長時間座ったままでいることも、運動をしないことと同様によくないとする研究があります。血流が悪くなり、血管の機能が損なわれるからです。机をスタンド式にしたり、定期的に立って動いたりするなど継続して座る時間を短くすることも心掛けてください」
▽おの・れい 1972年、大阪府吹田市生まれ。2002年、神戸大医学部卒業、12年に京都大大学院医学研究科修了。疫学調査を基に、高齢者の認知症や産後女性の腰痛と運動などをテーマにした理学療法研究を行う。理学療法士。09年より現職。同府豊中市在住。