きょうからできる認知症対策
認知症への対策を神戸大教授らに聞くシリーズ。前回は認知症を予防するための年代別の課題を整理し、紹介しました。さて、比較的早い年代で発症する「若年性認知症」は仕事や子育て、介護に忙しい人も多く家族への影響が大きい上、対応する施設やサービスが少ないなど困難に直面します。その特異性や対応を、神経内科医で神戸大大学院保健学研究科の古和(こわ)久朋教授(48)に聞きました。(聞き手・小西博美)
-若年性認知症とは。
「65歳未満と比較的若くして発症し、国内に約4万人いると言われます。通常はアルツハイマー病が多いのですが、若年性の場合、脳梗塞や脳出血の後、発症する血管性認知症が4割と最も多い。これとアルツハイマー病とで6割以上を占めます。また元気がない、食欲がない、イライラするなど鬱(うつ)や更年期障害と症状が似ており、診断が難しいのも特徴で、専門機関の受診が必要です」
-遺伝的な要因がある。
「若年性認知症の30%が遺伝的要因とされます。最もよく知られているのが『アポE4』。アポEとはアポリポプロテインというタンパク質で、血中の脂質と結合してコレステロールなどを運びます。遺伝的に2、3、4の3種類があり、4を持っている人が日本人では10%いますが、このうち10%が認知症になります。アルツハイマーの5割から6割近い人がアポE4を持っており、発症が早いと言われています」
-通常の認知症と異なる点は。
「子育てや仕事をバリバリこなしている年代で、まだ家のローンがあり、本来、親の介護をやらなければならない人が親に介護されるということも。高齢者以上に障害者手帳や年金など考えなくてはならないことが多くなるでしょう。また、通常の介護保険の対象は70~80代がメインなので、若年層となれば話題や対応も変わってきますが、若い人に合った施設やサービスがまだまだ少ないのが現状です。そんな中で、病院や社会福祉協議会、有志の人たちによって少しずつ若年性認知症の人の居場所づくりが進められています」
-仕事を続けるのは難しいのでしょうか。
「認知症を発症しても、すぐに全てができなくなるわけではありません。配置転換をしたり、補助を得ながら今の能力でできる仕事をしたりすることが考えられます。また、自立支援のための障害者手帳を得ることができます。障害者雇用の水増し問題が話題になりましたが、会社にも雇用することにメリットがあるので、少しでも長く働いてもらえるような雰囲気ができつつあるのではないでしょうか。病気の進行がゆっくりだったり軽かったりすると、仕事をした方が社会参加や役割の付与につながり、良い効果をもたらします。ただ、障害者年金などの経済的支援が得られる制度もありますので、状況に応じて利用すると良いでしょう」
-情報も不足している。
「高齢の認知症患者ほど情報が豊富ではありません。若年性と診断されて薬を処方されたけど、どこへ行けばいいかと悩む家族もいます。神戸市内には若年性に特化したデイサービスがあり、積極的に参加するのも良いでしょう。また、国や兵庫県から指定を受けた『認知症疾患医療センター』が県内の19病院にあり、若年性も含めた診断や相談ができます。兵庫県は若年性認知症の人や家族を支援する冊子も作っており、参考になると思います。私たちは認知症の治療や薬の開発を進めていますが、最も急がなければならないのは、このように若くして発症する人たちのためだと思っています」
【こわ・ひさとも】1970年、東京都生まれ。95年東京大医学部卒。2004年3月、同大大学院修了。同大学病院で認知症専門外来を立ち上げ、10年に神戸大へ。認知症専門医として診療に携わる一方、認知症予防の講演も行う。17年から現職。芦屋市在住。
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