地球上どこにいてもインターネットにつながるようにする方法、電気自動車が普及するための条件、東京大から「ユニコーン」(有望な非上場ベンチャー企業)を生み出すために必要な手立ては-。東大でIoT(モノのインターネット)の研究を率いる元アスキー社長の西和彦さん(63)が、次世代のテクノロジーに対する持論などを縦横に語った。
(聞き手・大島光貴)
-東大の研究は五つ。IoTの無線インフラでは壮大な目標を掲げている。
東大での私の研究は大きく分けて五つある。「IoTデバイス」「IoTの無線インフラ」「クラウド」「人工知能(AI)」と「都市計画」だ。
IoTの無線インフラでは、低消費電力で広いエリアをカバーする無線通信方式「LoRa(ローラ)を使ったさまざまな研究開発を、全国の各大学と共同で行っている。
ローラを内蔵した人工衛星を作り、これを100発ぐらい上げれば、地球上のどこにいてもインターネットにつながる。人工衛星を作って飛ばしたい。退職の65歳までにとりあえず1基は完成し、まずはジェット機に載せて飛ばしてみようと思う。
渡り鳥の首輪に衛星利用測位システム(GPS)の付いたIoTを付けたら、渡り鳥がどんな高さでどこに飛んでいるか分かる。クマやクジラの背中に付けたら、生物学がうんと進むに違いない。
クラウドでは、高速のデータベースプロセッサや中央演算処理装置(CPU)といったスーパーコンピューターのようなものを開発している。AIでは、多国語をサポートする人工知能用言語の開発を手掛けている。
研究開発そのものが面白い。IoTメディアラボラトリーで買った3次元プリンターでケースや電子基板を作り、試作をいろいろ進めている。ほとんど何でも作ることができる。
-東大からユニコーン企業が生まれるには「ベンチャー経験者が教員になるのもいい」と説く。
企業としての評価額が10億ドル(約1100億円)以上で、非上場のベンチャー企業を指す「ユニコーン企業」が東大から出る可能性はあると思う。新しい半導体デバイスや医療分野などだ。ただ、東大の関連のベンチャーキャピタルは、他と同じで、リターンを求めて、長期的に技術を育てようとしていない。優秀な人材を輩出するには、ベンチャー経験者が教員になることが欠かせないのではないか。
学部ではIoT機器を作る演習をしている。教科書のない授業、学生自身にテーマを選ばせて、開発、発表させる。受験勉強に慣れた学生にとってはつらいかもしれない。車の運転者にエコな運転をさせたり、脳波でドローンを制御したりという面白いアイデアがすでに出ている。モノの設計を教えるというより、モノの作り方のすべてのプロセスを教える。そして、企業でエンジニアとして即、使える人材を育てたい。