東日本大震災の地震と津波で電源を失い、炉心溶融(メルトダウン)を起こした東京電力福島第1原発の事故から11年が過ぎた。事故後30~40年かかるとされる廃炉工程の中、直面する難題の一つは、放射性物質を含んだ「処理水」の処分である。
溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷却した水と、原子炉建屋の地下水などが混じった汚染水は、浄化した処理水にして来年春ごろから海洋放出される。政府がその方針を決め、東電が準備を進めている。
政府は基準を満たせば環境に影響がないと言うが、風評被害を懸念する漁業関係者らの反対の声は強い。地元との話し合いがつかないままの海洋放出は到底容認できない。
処理水は技術的に放射性物質トリチウムの除去ができない。それが約130万トンに達し、増え続ける。敷地内の貯水タンクの容量は、来年春ごろ満杯になると試算される。海洋放出はいわば「時間切れ」の結論であり、問題を先送りし続けた政府と東電の責任は重いというしかない。
海洋放出で水産物の販売減や価格下落などの風評被害が起きた場合、政府は国費で買い取る検討をしている。安全性のPRも行うという。
しかし福島の漁業者が望むのは、補償よりも漁業の復興である。昨年春、ようやく試験操業から本格操業への移行期間に入り、11月には被災した県内の10漁港を全て復旧し終えた。放出が「最悪のタイミング」と嘆く地元の思いは理解できる。
東電はトリチウムを国の基準の数十分の1程度まで海水で薄め、海底トンネルで沖合約1キロに放出し、拡散させるとしている。また、環境省などの海洋モニタリング(監視)は12カ所から50カ所程度に増やす。
トリチウムは国内外の原発が排出しているものだ。だが市民団体などからは「原発の日常運転による放出とは異なる」との指摘も出ている。政府には、国民の疑念に真摯(しんし)に向き合い、放出に関する科学的根拠を丁寧に説明する姿勢が欠かせない。
国際原子力機関(IAEA)の調査団も先月、海洋放出の安全性確認のために来日した。4月の報告では客観的で公平な検証を望みたい。
デブリは1~3号機で計880トンとされる。今年2号機の取り出しを始める予定だが、1号機では先月、デブリの可能性のあるものが確認されたばかりだ。廃炉に向け、全量を取り出す見通しは立っていない。
デブリがある限り、処理水の問題は解消されない。東電はタンクの「満杯」を主張するが、増設をしてでも、政府と東電は地元との対話を継続し、納得できる処理方法を探るべきだ。禍根を残す拙速な海洋放出の強行は避けなければならない。
