7月の九州豪雨で水没した熊本県球磨(くま)村立渡(わたり)小学校のグランドピアノをよみがえらせ、復興のシンボルとして来年3月の卒業式で校歌を奏でてもらおうと、兵庫県尼崎市のボランティア団体「MOVE(ムーヴ)」が修理費など計200万円の寄付を募っている。メンバーは、ピアノの音色と子どもたちの歌声が再び重なる日を願い、協力を呼び掛ける。(大田将之)
ムーヴのメンバーは9月19~22日、球磨川の氾濫により甚大な被害を受けた球磨村で、泥のかき出しなどを手伝った。同村の教育長に案内され、足を運んだ渡小の体育館。床はめくれ上がり、館内に入ることはできなかった。中をのぞくと、泥にまみれたピアノが倒れていた。
ムーヴは、尼崎市の武庫荘総合高校を卒業した同級生8人で今年設立した。全員が少年時代に阪神・淡路大震災を経験した。「尼崎を含めて今のまちがあるのは、たくさんの人たちに復興を支えてもらったおかげ。大人になった今、できることをやりたい」。そんな思いで球磨村を訪れた。
渡小の児童は別の小学校のプレハブ校舎に通い、仮設住宅で生活する児童も少なくない。自宅や学びやに帰ることができず不安な日々を過ごす子どもたちに思いをはせ「もう一度このピアノで校歌を歌わせてあげたい」と修復を決心。学校側に打診した。
ピアノの弦はさび付き、鍵盤を押し込んでも、音は響かない。メーカーも「修理はほぼ無理でしょう…」との回答だった。それでもあきらめずに方法を模索し、インターネットで1人の調律師を見つけた。東日本大震災で、津波に流された中学校のピアノを復活させた遠藤洋さん(福島県いわき市)だ。遠藤さんに相談すると、快諾してくれた。
200万円あれば新品が買えたが、「子どもたちにとってはかけがえのない特別なもの」と、現物の修理にこだわった。遠藤さんがよみがえらせたピアノが「奇跡のピアノ」として各地で復興の調べを奏でていることや、ピアノがチャリティーイベントなどで演奏されれば「村の復興の一助になる」との思いもある。
メンバーは「ピアノが村の復興への希望になれば」「村の人たちの心が疲労しているのを強く感じた。子どもたちの喜ぶ姿は、きっと大人にも元気を与えると思う」「ピアノが残れば、災害の教訓を語り継ぐことができる」「まずは被災地の現状を知ってもらい、支援をいただければうれしい」などと話す。
寄付は、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で来年1月29日まで募る。サイトには「球磨村 渡小 ピアノ」などでウェブ検索すればアクセスできる。
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