コロナ禍でさまざまな催しが中止となる中、感染対策を徹底しながら、春休みの子どもに思いっきり笑ってもらおう。そんな思いで神戸市東灘区出身の落語家・桂福丸さん(42)が客を小学生に限った寄席を大阪で企画する。ピッコロシアター(兵庫県尼崎市)は2年ぶりに子ども向け寄席を再開し、同県西宮市では4月に狂言の催しも。子ども向けのお笑いは充実のラインアップだ。(金井恒幸)
福丸さんは、小学生の長男ら子ども2人の学校生活がコロナで制約されるのを見て、「何かできないか」と考えた。自身も小学生のころ、桂南光(当時・べかこ)さんの落語に笑い転げた経験も背景にあった。
昨年3月、当時休校中の子どもに向けて落語を動画で配信、8月にはオンラインでの親子寄席を開いた。「次は生舞台の魅力を」と、12月、大阪市港区の小学校で公演を実施した。
「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ…」。福丸さんは、子どもの名前が長くて親が苦労する、言葉遊びの落語「じゅげむ」を披露。体育座りをしていた子どもたちは笑い転げ、全身を揺らした。参加した女児(7)の母親(43)は「娘がじゅげむを好きになり、家族で落語動画を見るようにもなった」と喜ぶ。
手応えを得た福丸さんは今月31日、小学生を対象にした寄席に挑戦する。会場は天満天神繁昌亭(大阪市北区)で、「お小遣いで払ってほしい」と入場料を300円に設定した。保護者の不安を解消するため、連絡先を書いたメモを持参してもらい、何かあれば主催者側が連絡する。座席は定数の半数以下に抑える。
福丸さんが「じゅげむ」などを披露、忍者の服装で小道具の使い方を解説する。福丸さんは「楽しみにしていた行事の縮小が相次ぐ中、子どもには自由な空間で伸び伸びと過ごしてほしい」と話す。「落語を楽しむには、自分以外の人の立場を考える力が必要。その力は他人への思いやりにつながるはず」と期待する。
ピッコロシアターの「子どもと楽しむ落語会」は28日、神戸大出身で尼崎市在住の落語家・桂吉弥さん(50)らによって催される。2004年から続く春の風物詩だったが、昨年はコロナで中止。今年は「閉塞(へいそく)した気分になりがちだが、ゆったりと楽しめる時間をつくりたい」と再開を決めた。ただ、子どもが舞台上で鳴り物に触れたり記念撮影したりする行事は取りやめた。
このほか、兵庫県立芸術文化センター(西宮市)では「みんなで楽しく狂言会」が4月4日に予定され、初めての子どもにも親しみやすい狂言の演目が披露される。
【桂福丸(かつら・ふくまる)】灘中・灘高校、京都大法学部卒で“高学歴落語家”として知られる。1995年1月の阪神・淡路大震災の時は高校1年で、自宅は半壊し、テント暮らしを経験した。2007年、桂福団治さんに入門。17年度に文化庁芸術祭新人賞を受けた。
■想像力豊か 大人以上に爆笑
子どもは落語を楽しめるのだろうか。「人生経験は少ないが、子どもはその分を想像力で大人以上に補う。大人以上の爆笑に包まれることも多い」。1992年から「おやこ寄席」を全国で続ける落語家の桂文我さん(60)は力説する。
「ない物をあるように見せるのがいい」「食べる様子が上手」「顔の向きを変えるだけで何人も演じるのがすごい」。寄せられた感想からは、子どもが落語にはまる様子が目に浮かぶ。
文我さんのおやこ寄席では主役の子どもが前方の席、親は後方の席。親が声を掛けてしまい、子どもの想像力を壊さないためだ。
まずは「今日は何食べた?」と始めて、「友だちになる」と文我さん。「じゅげむ」のように言葉遊びがある「平林」や幽霊が出る「皿屋敷」のほか、「犬の目」「つる」といった動物が登場する演目は人気が高く、「笑ってくれるときの目の輝きが大人と違う」と話す。(金井恒幸)











