神戸市灘区の六甲山で4月、脚を粘着テープで縛られた状態で見つかり、葺合署が保護したトイプードルの子犬が、発見者の男性の元で暮らすことになった。前の飼い主が所有権を放棄したため、男性が引き取りを希望した。生後約半年の雌で、毛の色にちなんだ名前は「おこげ」。愛情をたっぷり受けながら新しい家族に溶け込みつつある。
引き取ったのは、中学教諭の宇都宮和史さん(30)=神戸市。4月2日朝、車で通勤中、同市灘区六甲山町の「表六甲ドライブウェイ」で、前の車が急に減速し、路肩に止まったのに気付いた。
「何やろう」。追い越しざまに反対車線を見ると、小さくて黒っぽい動物がちらっと目に入った。
「キツネやウサギじゃなさそうだし。まさか、犬? いや、そんなはずないか? でも犬やったら…と、もやもやして」
Uターンして車を降り、近づくと、予感は当たっていた。しゃがんで「おいで」と呼び掛けると、子犬がひざの上に乗ってきた。
人懐っこいが、かなり弱っていた。ひとまず車に乗せる。移動中、子犬は後部座席から隙間を縫って運転席の宇都宮さんの体に乗ってきた。かわいかったが、鼻をつく独特の臭いに、思わず窓を全開にした。
学校は春休み中。同僚がコンビニで買ったドッグフードを与えると、がっついて食べた。皿に入れて水をやると、口の周りの毛がちょっとつくだけで、水が真っ茶色ににごった。
ふと、片方の前脚に粘着テープが巻かれているのに気付いた。「まさか」と思ってぼさぼさの毛をほどいてみると、後ろ脚がテープでぐるぐるに巻かれ、束ねられていた。「かわいそう」とばかり思っていた心の中に、怒りがこみ上げた。
夕方、姉が通っている動物病院に行こうと、同市中央区へ向かった。先に近くの葺合署に寄り、子犬を見つけたこと、脚がテープで巻かれていたことなどを相談した。すると、「証拠物だから」と、署が子犬を預かることになった。
子犬は体に個体識別用のマイクロチップが埋め込まれ、飼い主はすぐに特定された。署は動物愛護法違反の疑いで捜査を始めた。
宇都宮さんは考えた。この子犬は幸せになれるんだろうか。いや、絶対に幸せになってほしい。
「もし飼い主の元に戻らないなら、この子犬はうちで引き取りたい」と署に伝え、帰宅した。
◇
「どうしますか?」
5月6日、同署の拾得物係から電話があり、元の飼い主が所有権を放棄したと聞かされた。宇都宮さんは迷わず引き取ると答えた。
同10日夕、同署で受け取りの書類に記入をしていると、奥から「キャンキャン」と元気な鳴き声が聞こえた。声はだんだん近く、大きくなる。もこもこした子犬が入ったケージが運ばれてきた。
抱え上げ、その重みに安心した。発見時1・7キロだった体重は2・7キロに増えていた。顔を近づけると、ぺろぺろとなめてくる。再会の実感が湧き、うれしかった。
引き取りが決まった際、まずはぼさぼさの毛を整えてあげようと、トリミングを予約した。動物病院を受診する段取りもした。
ところが、子犬は保護されている間に脚の毛を短くした「ヒツジカット」を施してもらい、既に全身がすっきりしていた。シャンプーで、ダニやノミもしっかり取れていた。
「別の犬かと思うほど見違えていました。正直、久しぶりというより『初めまして』という感じで戸惑った」と宇都宮さん。幸せな気持ちで、カットや病院の予約をキャンセルした。
「『モカ』とか『チディ』は? 『おこげ』はどう?」「おこげ? ちょっとしっくりこん。…いや、意外といいかも」
引き取りが決まる前から妻らと家族会議を繰り返してきた結果、「おこげ」と名付けることにした。
1週間で「おすわり」と「待て」を覚え、小さなテニスボールを投げると勢いよく駆けだし、くわえて戻ってきて「もう1回」を延々とおねだりする。
「普通は嫌がるんですけど」。カフェのテラス席で取材中、宇都宮さんが足元にいたおこげを、おなかを上にして抱き上げた。脚やしっぽをつかみ、おなかをさすってもほえず暴れず、うっとりしている。
初対面の記者にも警戒せず、脚の間をくぐったり、じゃれてきたりした。
一見、人懐っこく、利口なおこげだが、実は留守番が苦手だという。「心配だから、外でもスマホで家の中の様子が見られるペットカメラを付けたんですが、ずっとほえ続けています」
宇都宮さんが家にいる間は風呂もトイレも、どこでもぴったりとついてくる。「もしかすると、道に捨てられたことがトラウマ(心的外傷)になってるのかもしれません。だから、人に甘えようとする。分離不安がかなり強いみたいです」
留守にする日は両親に預けるなど、できるだけ誰かがそばにいるよう家族で協力しているという。
誰がどんな経緯でおこげを置き去りにしたのか。何のために脚を縛ったのか。宇都宮さんは知らない。
「気にはなるけど、全部過去のこと。これから一緒に楽しく暮らし、嫌なことを忘れられるようにするのが僕たちの役目」
そう語る宇都宮さんの顔を、おこげがぺろぺろとなめた。「再会の日もこうしたよね。うれしい思い出はどんどん増えているよ」。宇都宮さんにそう言っているかのように見えた。(斎藤 誉、井上太郎)
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