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「外食ガリバー」渋谷から目指す 丸亀製麺・トリドールHDの戦略は

2019.12.01
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トリドールHD社長粟田貴也さん=東京都渋谷区(撮影・永見将人)

トリドールHD社長粟田貴也さん=東京都渋谷区(撮影・永見将人)

 セルフ式うどん店「丸亀製麺」のヒットで急成長した外食チェーンのトリドールホールディングス(HD)は1985年、兵庫県加古川市にオープンした8坪の焼き鳥居酒屋に起源を持つ。現在、国内外で1700店超を展開し、経営目標として「2025年に世界6千店」を掲げる。今年9月には、本社を神戸・三宮から東京・渋谷に移した。新しいオフィスは、再開発ビル最上階2フロアの千坪。カフェ、アート、ライブラリースペースがあり、軽快な洋楽も流れて、何だかアメリカ西海岸のIT企業のよう。社長の粟田貴也さん(58)はこのオフィスで働き方改革を進め、「外食業界のガリバー」への飛躍を目指すという。(西井由比子)

 ー新オフィスはIT企業が多く進出する渋谷の再開発ビルの19、20階です。なぜ今、渋谷なのでしょうか。

 「本社は会社の体(てい)を表すもの。ブランディングの一環として、先進的で伸び盛りの企業が集まるこの場所を選びました。渋谷は今、100年に1度と言われる規模で再開発が進み、活気にあふれています。その活力を成長に取り込みたい。谷底にある渋谷駅から道玄坂を上って、頂近くのビルの最上階なので、渋谷に集まる企業をぐるりと見渡せるんです。いろいろ夢想できますよね」

 「外食業界はイメージがあまり良くないんでしょうね。優秀な人材が集まりにくいのです。これから世界6千店の目標を達成するためには、外部のプロフェッショナルや、ブルーオーシャン(競合相手のいない未開拓の市場)を開拓できる人材が必要です。業界のイメージを変え、人材を獲得したいんです」

 ーインテリアにも相当こだわりが見えます。コーヒーと音楽、観葉植物と大きなソファで、気分が軽くなってくるようです。

 「海外に出るようになった10年ほど前から、ずっと考えてきたことです。スターバックスの店舗に行くと、人々がアップルのパソコンを開いて仕事をしている。こういう空間が、働くモチベーションを高めるのかと。じゃあ、オフィスをそういう風にすればいいなと」

 「オランダ発祥の『アクティビティ・ベースド・ワーキング』(ABW)と呼ばれる設計思想を取り入れました。仕事に応じて最適な場所を選ぶという考え方です。働く座席を固定しないフリーアドレス制で事務机を一列に並べず、多彩なデザイン家具をゆったりと配置しました。ライブラリー、アートスペースは中身を定期的に入れ替えます。カフェのランチメニューは年間400種類を用意します。『インスピレーションを得られるオフィス』を目指しました。実際につくってみて思いますが、10年もすれば、どこのオフィスもこういう形に変わっていくんじゃないでしょうか。事務机をずらっと並べて一様に仕事するより、こちらの方が自然なように思います」

 ーこういうオフィスなら働き方改革も進めやすい、と?

 「そうですね。ただ、場所を用意した、で終わったらだめだと思っています。簡単に言うと、次は従業員が自主的に働く環境をつくっていきます。各自がミッションをそれぞれ持ってこなし、それが評価、報酬に連動していく-というのがいいと思っています。その先に、リモートワーク(自宅など会社以外の場所で行う遠隔勤務形態)があり、さらに効率の良い働き方につながっていくと考えています」

 ー創業34年、一代で成長の階段を駆け上がりました。若いときから飲食店の経営に興味があったのですか。

 「学生時代に喫茶店でアルバイトをしたことが外食業界に興味を持ったきっかけです。自分も喫茶店をやろうと、資金をためるために大学を中退して運送会社で働き始めました。ところが、『たこ部屋』みたいなところで寝泊まりしながらの長時間労働で、とにかくひどい環境だった。その中で屋台のぬくもりを知り、居酒屋もいいなと。それで23歳のときに加古川で『トリドール三番館』をオープンさせました。いつか店を三つというのが、当時の夢でしたが、どんどん膨らんでいきましたね」

 ー06年には、東証マザーズへの株式上場を果たします。右肩上がりで順調すぎるように見えます。

 「とんでもない。夢が大きい分だけ、挫折感、焦燥感に駆られることは多い。株式上場では大変苦労しました。トリドールの店舗を増やしていくための資金が欲しくて上場計画を立てたのですが、その課程で鳥インフルエンザが発生し、計画の練り直しを迫られました。00年に初出店した丸亀製麺を主軸にする計画に変えて何とか乗り切りましたが、株式上場にかなり資金をつぎ込んでいたので、見えない先行きに目の前が真っ白になりました」

 「ただ、そんなさなかに成長のエンジンがかかりました。03年、神戸・ハーバーランドのプロメナ神戸に出店した丸亀製麺が当たった。全国のショッピングセンターからフードコートへの出店依頼が来て、一気に全国展開企業になったんです。11年にはハワイに出店して海外進出を果たしました。そうは言っても創業から今に至るまでずっと、あちこちに頭をぶつけ続けています。リスクを恐れてチャレンジしないというのはわが社ではない。ベンチャースピリットをなくさない。成長痛を感じつつ、背伸びをしながらやっていけたらと思っています」

 ーところで、自身のファッションが以前と変わりましたね。ロングTシャツにデニムパンツ、スニーカー…。アップルの創業者、故スティーブ・ジョブズ氏みたいです。世界企業を目指しているからでしょうか。

 「昔はスーツを着ていましたね。軽く見られがちな外食業界の人間だからこそ服装はちゃんと、と思っていました。今、全部『ユニクロ』なんですよ。ユニクロって、すごい会社ですよね。なかなかああはなれない。リスペクトの念から着ているのかと言われれば、そうかもしれない。夜中に通信販売で5枚単位で買っています。ジョブズは合理的ですね。毎朝着るものを考えなくていいというのは、楽ですよ。当社の社員も、スーツではなく好きなスタイルで出社しています。スーツが当たり前、と限定してしまわず、自分の好きなスタイルでいいじゃないですか。自由な発想は、そういうところから生まれるんじゃないでしょうか」

【あわた・たかや】1961年神戸市長田区生まれ。加古川東高卒、神戸市外国語大中退。東京都在住。午前4時台に起床してからの皇居ラン(皇居外周のランニング)が日課。思考整理に役立てている。

■データ トリドールホールディングス 丸亀製麺のほか、とりどーる、コナズ珈琲、長田本庄軒、丸醤屋などを展開。アジアを中心に世界35カ国・地域に1755店舗を持つ。19年3月期は、連結売上高1450億円、従業員数3871人。