経済
通帳紛失も払い戻し 震災で金融パニック防いだ銀行マン
阪神・淡路大震災で金融パニックを防いだ銀行マンがいた。当時の日本銀行神戸支店長、遠藤勝裕さん(74)。通帳や印鑑がなくても預金を引き出せるようにし、倒壊した銀行に日銀の支店を開放した。遠藤さんは「現金は命綱」と被災地での重要性を説く。(大島光貴)
「預金証書・通帳を紛(焼)失した場合でも預金者であることを確認して払い戻しに応じること」-。
地震から約6時間後。1995年1月17日正午ごろ、遠藤さんは部下に命じ、8項目を便箋2枚に書かせた。近畿財務局神戸財務事務所長が、事務所から取り出せなかった印鑑の代わりに赤ペンでサイン。この瞬間、被災地に「金融特別措置」が“発動”した。
ラジオなどで知らせると、翌18日、金融機関の支店長たちが悲愴(ひそう)な表情で駆け込んできた。
「預金者が押しかけているが、店舗が崩れて預金を下ろせない」
日銀神戸支店の建屋に大きな被害はなかった。遠藤さんは「うちの中に各銀行の店舗をつくろう」と決断。当時、支店には1兆5千億円分の現金があり、当面は融通できる。日銀内で他の銀行が営業するのは、50年前、原爆が投下された広島支店で行って以来のことだった。
20日から最大18行が支店内などに臨時窓口を開設。遠藤さんは特別措置の通り、通帳のない被災者にも現金を渡すよう伝えた。
「預金者だとうそをつかれたらどうするんですか」。ある銀行の支店長に問われ、即答した。「義援金だと思って渡してください」
それから15日間で被災者ら約3千人が訪れ、引き出された預金は約15億円。大きなトラブルもなく、安心した被災者の表情を見たとき、「苦労しがいがあった」と感じた。
震災翌週、日銀本店で開かれた支店長会議。激務で行けなかった遠藤さんはメッセージを託した。
「現金供給という使命を守り続けることが、地域の人々にとっていかに大事な命綱であるか、痛感させられた」
経験は東日本大震災でも生かされ、日銀は支店のない盛岡市で傷んだ通貨を引き換える臨時窓口を地元銀行に設けた。
とっさの行動が取れた背景には、阪神・淡路以前に勤めた支店で水害や台風に見舞われた経験がある。それだけに、加速するキャッシュレス化に不安を覚えるという。実際、災害時に強いキャッシュレスの在り方について国も検討中だ。
遠藤さんは「大災害時は、電気や通信などが停止して決済できない事態が想定される。現金の機能を忘れてはいけない」と語る。
◇ ◇
■復興応援「民間の力うまく生かして」/遠藤さん、当時の仲間と今も交流
現在、整理回収機構の監査役(非常勤)や東京都教育委員を務める遠藤勝裕さんは25年間、神戸の復興と関わり続けている。緊急時を乗り越えた金融機関の元支店長とは絆が強く、16日には当時のメンバーが神戸に集まり、語り合う。
1995年春、被災地に人とお金の流れを取り戻すため、遠藤さんは兵庫県外企業や金融機関の支店長らと「神戸復興支援!何かを支店会」を結成。約150社300人が集い、神戸のホテルで毎月大宴会を催したほか、会議を神戸で開き、土産を買うよう促した。
一方、NPO法人「まち・コミュニケーション」(神戸市長田区)で理事を務め、毎年1月には神戸を訪れている。
被災地内外からの視点で、歩みを見てきた遠藤さん。「ハコ物重視の復興事業を進めた結果、ファッションや食を中心とした神戸らしさが失われた」と分析。港の国際競争力低下も気にかかる。
しかし、悲観はしていない。神戸市の人口は震災当時を上回り、医療など新しい産業の芽も出てきた。「神戸の強みを磨き、集積する教育機関の充実を図れば、国内外から人の流れを取り戻せる」と信じる。三宮の都心再整備にも注目し、「民間の力をうまく生かしてほしい」と語った。(大島光貴)
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