経済
PCR、抗体研究、病院支援… 神戸の医療産業、第2波備え
新型コロナウイルス感染症対策に、神戸医療産業都市に関わる企業が技術力を注ぎ込んでいる。医療機器、抗体研究、集中治療、ITなどの専門性を生かし、第2波以降への備えや収束後の生活も見据えた課題の解決策を探る。(横田良平)
■シスメックス 4通りの検査手法を推進
臨床検査機器・試薬大手のシスメックス(神戸市中央区)は4通りの検査を矢継ぎ早に進める。
同社は今年3月、PCR検査キットの製造販売を厚生労働省から承認された。中国企業が開発し、欧米でも使われている技術を持ち込んだ。検査態勢の拡充が全国的な課題となる中、地元では神戸市の委託を受けてポートアイランドで検査を実施する。
PCRとは別に、鼻の粘液などから17分で感染の有無が分かる検査法を開発した。B型肝炎などの免疫を測定する小型装置を応用して調べる。
また、症状が出ない潜在的な感染の広がりを把握することも重要なため、本人が気付かない間に体内にできた抗体が血液検査で分かるようにした。これらは6月以降、医療機関などで使用の拡大を見込む。
さらに、軽症患者が重症化する兆候を予測する技術の確立にも着手した。同社は、家次恒(ひさし)会長兼社長が神戸商工会議所の会頭を務め、地元企業を代表して医療産業都市を推進している。広報担当者は「新型コロナをインフルエンザなどと同様に普通の病気にしないといけない」と話す。
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【ベンチャー】
■イーベック 副作用少ない治療薬研究
治療薬の開発では、神戸・ポートアイランドに拠点を置くバイオベンチャーのイーベック(札幌市)が、新型コロナに感染して治癒した患者の血液から抗体を取り出し、薬への転用を図っている。
研究員3人が4月から神戸に常駐。神戸市内を含む国内の医療機関から血液の提供を受ける。これまでにマラリアなどの抗体開発を手掛けた技術を生かして抗体を培養し、製薬会社などに提供する。
ヒトの血液から作るため副作用を抑えられるが、実用化は来年以降になりそうという。寅嶋崇取締役(46)は「新型コロナウイルスの変異にも対応して効き目を持つ薬につなげたい」と話す。
■T-ICU 入院患者の容体、遠隔監視
医師不足の病院の支援を目指すベンチャーもある。集中治療専門医らが設立したT-ICU(兵庫県芦屋市)は、重症コロナ患者を受け入れる集中治療室(ICU)に対し、オンラインによる助言を24時間態勢で行う。
同社の遠隔システムは、人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」をつけた患者の容体を監視し、変化に応じて助言。医療水準の格差解消や現場の医師、看護師の疲弊を防ぐ。
協力を申し出た専門医は20人を超え、神戸市内の同社の拠点や自宅から助言する。埼玉県内の病院へサービス提供を始め、他にも複数の病院から相談がある。中西智之社長(44)は「今後も断続的に感染が広がるだろう。備えに貢献する」と話す。
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【ITサービス】
神戸・三宮に昨年、事務所を設けたITサービスのオプティム(東京)は、感染拡大を防ぐため新型コロナ以外の患者も病院に足を運びにくい状況を踏まえ、オンライン診療の専用アプリを9月上旬まで無償提供する。
医師はスマートフォンやタブレット端末で診療を行い、処方箋を発行する。患者は受け取った処方箋を最寄りの薬局などで見せ、薬を受け取る。
医療向け以外にも、建設機械の操作や保険の査定をスマホなどで遠隔指示できるサービスを無償化。オンライン商談やセミナー用のアプリも手掛け、「コロナと共存し、収束後の生活に役立ちたい」とする。
企業の動きを、行政も後押しする。神戸医療産業都市推進機構は従来の制度を拡充し、治療などに役立つ新たな共同研究や事業に最大1千万円を助成する。応募数は昨年度の倍近くに上り、感染抑止が期待できる提案があるという。市医療産業都市部は「コロナの第2波、第3波に備えた検査態勢の強化などに市も一体となって取り組む。産官学医で協働する神戸のモデルを国内外に発信したい」としている。
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