経済
仕事と休暇セットで 湯村温泉がワーケーション売り出しへ
山間の川沿いに、98度の源泉が毎分470リットルわき出している。立ち上る湯気を見下ろすカフェで会社のパソコンをたたく。もうひと頑張りして本社にデータを送り終えたら、待ちに待った温泉とビールだ-。
都市部の会社員には夢のような働き方を、兵庫県新温泉町の湯村温泉が売り出そうとしている。
同温泉は1980年代、ドラマや映画になった「夢千代日記」の舞台として人気を集めた。92年度に約34万人が宿泊したが、ファンの高齢化もあって2019年度は約18万人に減った。
新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけた。宿泊施設は休業を強いられ、再開した後も団体客は戻らない。この夏、個人客は混雑しないよう、予約を制限している。
苦境の中、新たな需要として期待するのがワーケーションだ。インターネット環境が整った観光地や施設で、業務をこなしながら長めの休暇を楽しむ。誘致を目指す全国の自治体でつくる協議会に昨年、兵庫県から唯一参加した。
観光客数の早期回復は考えにくく、同温泉観光協会の朝野泰昌会長(64)は「平日に企業の数人のグループに連泊してもらい、施設の有効活用や雇用の安定につなげたい」と話す。カフェは試みの一つで、県などと連携して空き店舗の改装を決めた。年内のサービス開始を目指している。
さらに、町内の温泉付きログハウスにワーケーションに対応する設備を整え、カフェと併せて企業関係者の下見ツアーを実施する計画という。
「いかに企業に選んでもらうか」。誘致施策を担う同町おんせん天国室は頭をひねる。豊かな自然を生かした森林保全などの社会活動体験や、入浴と運動による健康増進もセットにしたプランの模索を続ける。
京都・西陣。「カシャンカシャン…」と、昔ながらの機織りの音が響く。歴史を重ねた町家の一角に、真新しいゲストハウス「ケフ」が立つ。6月、「お試し移住」と名付けた宿泊プランを打ち出した。
滞在期間は1カ月以上。シングル月4万円、ダブル6万円、ツイン6万3千円と、賃貸住宅並みの格安設定にした。ビジネスホテルを思わせる清潔な個室。全18室のうち6室に限って利用を募ると、「憧れの京都に住んでみたい」「働く拠点に」とする人の問い合わせが相次いだ。予約は、ほぼ1年先まで埋まった。
ケフは4月の開業当初、利用の半数をインバウンド(訪日外国人客)が占めると見込んでいた。コロナで軌道修正を迫られ、関西2府3県の住民の料金を割り引く「近場で旅行気分」も始めた。
運営会社は約2年前から、やはり西陣で、築100年という町家を改装した宿泊施設を手掛けている。数人のグループに1棟貸しし、好評という。姫路市出身のスタッフ中島崇裕さん(26)が、一連のサービスの狙いを説明する。「普段着の京都の深さを感じてもらえるように」
それぞれの土地の「らしさ」は失わずに、目線を広げる。(佐伯竜一)