経済
お城観光、花火離れていてもバーチャル体験 会えない客どう喜ばせるか
世界文化遺産の姫路城(兵庫県姫路市)へ、動画でご招待-。こんな触れ込みの観光グッズ「バーチャルリアリティー(VR)スコープ」をのぞき込む。大天守を見上げる映像が、現地を歩いているかのような速度で動き、顔の向きを変えると360度、展開した。
現地は、新型コロナウイルスの影響で、夏休みに入っても閑散としている。管理事務所によると、感染防止のため大天守を含む有料区域を閉鎖した4月の入城者は3千人強。再開した6月も約1・5万人と、約24万人だった昨年4月のにぎわいがうそのようだ。
VRスコープは、「平成の大修理」(2009~15年)を終えた優美な姿に親しんでもらうため、2年前から城内だけで販売してきた。コロナ禍を受け、来訪しない人もインターネットで購入できるようにする。
動画そのものは、スマートフォンで説明書のQRコードを読み取れば再生する。スコープにはめ込んで見ることで、臨場感が増す仕掛けだ。約240メートルの百間廊下など建物内部も疑似体験する。春井浩和所長(49)は「興味を持ってもらい、コロナ収束後の来城増につなげたい」と話す。
さらに、姫路市の外郭団体・姫路観光コンベンションビューローは、有料オンラインツアーの開発を急ぐ。話術が巧みな案内役が城内を歩き、テレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」でライブ配信する計画。参加者の質問に答える。世界文化遺産の二条城(京都市中京区)がすでに取り組んだ事例を参考にする。二条城では5月、非公開の場所の映像も配信し、700人以上が利用したという。
観光地の客足は、地元の商業者にとって死活問題で、姫路城では収束後に使える入城券を付けて売り込む考え。他にも播磨灘に密着した動画を配信し、捕れた魚の販売を目指す。
会えない客をどう喜ばせ、収益確保につなげるか。デジタル技術を使い、かつてない試みが進む。
京都では、新手のサービスが登場した。ITベンチャーのワントゥーテン(京都市下京区)の「デジタル花火」だ。利用者はまず、スマホで専用サイトに入り、花火のデザインを決める。大型スクリーンや室内外の壁にプロジェクターで映し、大輪を咲かせる。もともと東京・渋谷で7年前にあった単発のイベント用に開発したシステム。機能を充実させ、商品化した。
花火大会は、大勢が繰り出す夏の風物詩だが、びわ湖大花火大会(大津市)など、全国で中止が相次いでいる。デジタル花火は、離れた場所にいる人とスマホやパソコンで映像を共有し、密にならずに大人数で楽しめる。複数の企業から社内行事で使いたいなどとする問い合わせがあり、自治体や商店街からの引き合いも見込む。
今夏、帰省すらはばかられる状況が続く。同社の二之形昌弘営業本部長(47)は、「季節感を届けたい。遠くにいる人とも体験を共有し、少しでも前向きな気持ちになってもらえたらいい」と話す。
自由に行き来できる日が戻ることを願いながら。(三島大一郎)