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加速するクルマの「スマホ化」 経済ジャーナリスト・井上久男さん

2021.01.12
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井上久男さん

井上久男さん

 政府は二酸化炭素削減のため、2030年代半ばまでにガソリン車のみの新車販売を禁止する方針だ。これは世界的な潮流であり、中国や英国、米カリフォルニア州は35年までに、フランスも40年までに禁止する計画。電気モーターとエンジン併用のハイブリッド車(HV)も認めない方針の国や地域もある。電気自動車(EV)にシフトする流れが加速していることは間違いない。

 株式市場でもEV銘柄の評価が高い。米EVメーカー、テスラの時価総額は今年7月、トヨタ自動車を一気に追い越して今や約2・5倍。販売台数(19年)でトヨタの30分の1程度しかないのに、である。

 これを「EVバブル」と見る向きもあるが、筆者はそうは思わない。テスラは着実に実力をつけている。9月に開催された株主総会で、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏は「ガソリン車よりもコストが安いEVを作る」と宣言した。

 筆者がテスラを脅威に感じるのは単に時代の流れに乗っているからではなく、クルマの「スマホ化」を進め、ビジネスモデルを大きく変えようとしている点にある。スマホ化とはクルマのソフトウエアを無線技術でアップデートして、常に最新の技術を入れて性能を向上させることだ。スマホの基本ソフト(OS)が更新されると、新しい機能が使えるようになるのと同じイメージだ。

 これだと車体は陳腐化しても中身は最新に保てる。テスラはダウンロードに課金して収益を得る。トヨタも対抗してスマホ化を推進している。EV時代になると、クルマは今以上にソフトウエアの塊となり産業構造が大きく変化するだろう。マフラーや燃料噴射装置などの部品も不要になる。ただ、EVシフトには痛みが伴うかもしれない。国内の自動車関連の就業人口は約542万人で全体の8%。このうち部品が約69万人で組み立ての3倍以上だ。産業のすそ野が広い自動車に対しては雇用吸収の期待も大きいが、EV時代にはそれが崩れるかもしれない。

 一方で新たな企業も台頭してくる。モーター大手の日本電産の永守重信会長は「30年に売上高10兆円を目指し自動車産業のインテルになる」と豪語する。10年間でEV向け車載モーター事業を拡大させ、売り上げを現在の6倍以上にする計画だ。

 菅義偉首相は所信表明演説で「2050年には実質的に二酸化炭素の排出をゼロにする」と打ち出した。現状ではEVのバッテリーの生産時や走行時のエネルギーで火力発電による電力を多く使っているため、製品のライフサイクルトータルでは排出は減らないとの試算もある。

 総合的なエネルギー政策が必要になってきた。EVの次には水素を燃料とする燃料電池車(FCV)が来る可能性がある。川崎重工業は水素関連の事業を強化している。重厚長大型産業にもチャンスはある。脱二酸化炭素の動きは、産業の新陳代謝を促すことになる。

【いのうえ・ひさお】1964年福岡県生まれ、九大卒。大阪市立大大学院修了。朝日新聞記者を経て2004年に独立。自動車産業を25年以上取材。主著に「日産vsゴーン 支配と暗闘の20年」。神戸市在住。