経済
人口減の日本で、商社の役割とは 双日社長に聞く
神戸を拠点とした「鈴木商店」は大正期、日本最大の商社として名をはせた。その流れをくむ大手総合商社の双日(東京)が今秋、神戸市西区の駅前ビルに複合商業施設をオープンさせる。同ビルを巡っては、昨夏に約30年続いた「そごう西神店」が撤退。街のにぎわいが失われるのでは、との不安が広がったが、神戸ゆかりの商社の進出が決まり、地元の期待は高まっている。世界を舞台にビジネスをする商社が、なぜ地方の再開発事業に名乗りを上げたのか。双日社長の藤本昌義さん(63)は「日本の再活性に向けて、商社はもう一度、国内に目を向けるべき時だ」と語る。鈴木商店から受け継ぐ「起業家精神」が今こそ求められている、とも説く。(三島大一郎)
-新型コロナウイルスの再拡大が続いています。双日の各事業への影響はどうですか。
「最初の緊急事態宣言が出た昨春、自動車の生産工場が止まり、鉄鋼メーカーも操業を縮小したため収益への影響が大きかった。ただ最近は、自動車の製造・販売が回復し、鉄鋼もフル生産近くまで戻っています。心配なのが海外の状況です。中国は元気だが、フィリピンやインドネシアなどはコロナの影響が大きく、消費は落ち込んだままです。好不調がまだら模様の状況ですが、全体的には世界、経済がコロナ禍に対応し、確実に回復してきている。2022年の後半には海外との往来も自由になるとみています」
「働き方も変わりつつあります。リモートワークが進み、本社の出勤者数は約3割に減っています。ビデオ会議システムなどを使い、顧客とのやりとりも滞りなく進められていますが、やはり合わないものもある。特に海外で新しい事業を始める場合などは、相手と実際に顔を突き合わせて話をしなければ、なかなか事が進まない。全体的に会社の意思決定のスピードが落ちているようにも感じます。リモートワークで可能な仕事と、そうでない仕事の区別が見えてきたように思います」
-そごう西神店が撤退した西神中央駅百貨店ビルに、進出を決めた理由は?
「高度経済成長期に発展した日本の郊外ニュータウンは、いずれも高齢化が進み、オールドタウン化の解消が共通課題となっています。その中で西神中央はまだ若年層が多く、しかも行政主導の再開発が予定されていて、ファミリー層の関心も高い。そういう意味で、比較的取り組みやすい案件と思いました」
「双日は鈴木商店をはじめ、岩井商店、日本綿花と、いずれも神戸ゆかりの3社を源流としています。神戸という地域にはやはり特別な親しみがあります。神戸生まれや神戸大学出身の社員も多いので、今回、西神中央の再開発の話が出てきた時も、社内で『西神中央ってどこ?』とはならなかった。実はそれが一番大きいかもしれません」
-運営する商業施設「ピエリ守山」(滋賀県)は業績不振から復活を遂げました。西神の駅ビルがどう変わるのか。今から楽しみです。
「交渉途中のデリケートな時期なのでテナントの具体名は言えませんが、知名度のある複数の事業体から出店の意向を聞いています。家族ぐるみで食事を楽しめるような大型のレストランや、お茶を飲みながらゆっくり本を選んでもらえるような空間をつくりたいと考えています。秋ごろには開業できると思います」
-国内では東京一極集中、地方の過疎化が進み、地域産業の活性化が喫緊の課題となっています。
「右肩上がりで経済成長してきた日本で人口減少が進み、社会システムが大きく変わろうとしています。海外を中心に商売をしてきた総合商社も、地域産業の活性化に向けて何ができるのか、真剣に考えなくてはならない時期に来ています。東京から地方に出るトラックは荷物を積んでいるのに、地方から東京に戻るトラックは空荷というような話をよく聞く。これではいけない。やはり地方が元気にならなければ、国は豊かになりません」
「ただ、今の商社の役割がはっきり見えているわけではありません。私たちは今年4月から、社内の不動産部門と商業施設関連の部門を統合し、地域開発に向けた動きを本格化させようとしています。その第1号案件が西神中央なのです。他の地域の再開発案件も手掛ける予定ですが、まずは神戸の案件を大事にしていきたいと考えています」
-神戸をはじめ関西地方で、どのような事業を手掛けたいと考えていますか。
「関西には神戸製鋼所(神戸市中央区)や帝人(大阪市)など、同じく鈴木商店ゆかりの企業が数多く存在しています。こうした兄弟会社と一緒に何かできないかということも考えていきたい。例えば、兵庫県は県土が広く農業など1次産業も盛んですよね。すぐにビジネスにするのはなかなか難しいかもしれませんが、行政とも協力しながら農業開発の実証実験に取り組むことなども検討していければ、と思っています」
「うちは関西に本社がありません。コロナ禍もあって本社を移転する企業がありますが、本社機能の分散化というのは一定のメリットがあると考えています。とはいえ、東京近郊に家を構えている社員が多いので、今すぐに取り組むのは難しいです。まずは地方で仕事を生み出すことが先決でしょう。仕事が増えてくれば、現場に社員が常駐する必要性が出てきます。そうなれば、オフィスを増やす展開もあり得るでしょう」
-神戸の小さな商店から世界的企業に成長を遂げた鈴木商店。幻の巨大商社は今なお、人々を魅了し続けています。
「鈴木商店の経営は、はちゃめちゃな部分もありながら、ものすごいエネルギーでいくつもの企業を育て、日本経済をけん引しました。われわれも日本を変える、起業するのだという気概を持って仕事をしなければ、と強く思っています」
「実は16年から、神戸大学で寄付講座を開始しました。現役の商社マンが学生たちに、グローバルなビジネスや商社の仕組みを紹介しています。双日に興味を持ってもらうのが目的です。近年、うちに来る神戸の学生が少なくなっていて、それでは寂しいと始めた講座です。鈴木商店のチャレンジ精神が息づき、先進的なイメージのある神戸のまち。そこで学んだ多くの学生たちに、商社の門をたたいてほしいと思っています」
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【ふじもと・まさよし】1958年1月、福岡県生まれ。東大法学部卒。81年4月、日商岩井(現双日)入社。自動車畑を長く歩み、双日米国会社兼米州機械部門長、執行役員、専務執行役員などを経て、17年6月から現職。
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<データ>双日 総合商社の日商岩井とニチメンが2003年に持ち株会社を設立し、翌04年に合併して誕生。明治・大正期に神戸港を舞台に発展した商社の鈴木商店、岩井商店、紡績業の日本綿花をルーツとする。自動車や航空、エネルギー、食料資源、リテール事業関連などの幅広い分野で事業を展開。20年3月期の連結売上高は1兆7548億円。連結従業員数は約1万9千人(2020年12月現在)



















