経済
東証の市場再編まであと半年 兵庫の15社「最上位」選択
東京証券取引所が来年4月4日に予定する市場再編まで、半年を切った。移行先の市場を申請する手続きが9月に始まり、兵庫県内では既に1部上場の15社が最上位の「プライム」市場を選んだ。東証は現在の1部よりも厳しい上場基準を課し、市場の質を高める方針を示す。長年親しまれた「東証1部」の消滅を前に、県内企業の対応を追った。(高見雄樹)
県内の上場企業は、大企業中心の東証1部69社▽中堅の同2部29社▽中堅と新興企業によるジャスダック9社▽新興中心のマザーズ3社-の計110社。再編により、各社はグローバルに活動する大企業のプライム▽中堅企業のスタンダード▽新興企業のグロース-のいずれかに上場先を決める必要がある。東証への申請期限は12月末だ。
外国人投資家を呼び込んで売買を活性化しようと、東証はプライムに新たな基準を設けた。役員や大株主など安定株主以外が持つ「流通株式」もその一つだ。流通株式数の下限を2万単位とし、企業価値を示す時価総額(株価と発行済み株式数の積)は流通株式で100億円以上が必要だ。
安定株主の意向に支配されないよう、全株式に占める流通株式の比率は35%以上となる。最上位市場にふさわしく、より高い水準のガバナンス(健全に企業を経営するための管理体制)も求められる。
■適合通知
東証は今年7月、3市場のどこに適合しているのかを各社に通知した。県内では10月7日までに、15社がプライムへの上場申請を取締役会で決めた。上場維持基準の達成度を個別に聞くと、おおむね基準を大きく上回った=表(1)。
トーカロ(神戸市中央区)は「上場の要件や責任に向き合うことで、持続的に成長するしっかりした企業にしたい」と、プライム移行の意義を語る。一方、ある企業の担当者は「最上位とはいえ、ほぼ自動的に1部から移行できる」と冷めた見方を示した。
大真空(加古川市)は「同業他社との関係」を理由に、TOA(神戸市中央区)は「法的な開示事項以外は出さないのが会社の方針」と数値の回答を拒んだ。
■未達でも
15社の中で唯一、超えられない基準があったのが美容室向けヘアケア商品メーカーのアジュバンホールディングス(同)。流通株式の時価総額が36億円と、プライム基準の100億円を下回った。それでも今月5日、プライムへの申請を取締役会で決議した。
実は東証には、市場再編の経過措置がある。基準を満たさなくても将来の達成可能性を示せば、当面は上場を認める方針だ。
アジュバンは今月、理化学研究所との共同研究を基に、男性用の育毛剤を商品化した。これをネット通販で消費者に直接販売することで新たな顧客を開拓、将来的に企業価値を底上げできると説明する。
「新商品がなければ、間違いなくスタンダード市場に移っていた」と担当者。「最上位市場に上場することは採用や社会的信用の面で有利」といい、大株主である創業者らの持ち分売却も視野に、流通株式数を増やすことも検討している。
■ぬるま湯
神戸新聞社の取材では、現時点で約20社がプライム以外を目指す。スタンダードには東証2部から13社、ジャスダックから7社が移行を見込む=表(2)。
スタンダードにも流通株式比率が25%以上などの基準があり、親会社が株式の大半を握る上場子会社はこの基準を達成できない。川崎重工業(同)は8月にジャスダック上場の川重冷熱工業(滋賀県草津市)を完全子会社化。神戸製鋼所(神戸市中央区)も11月、2部上場の神鋼環境ソリューションを株式交換で完全子会社化する。
ある2部上場企業の担当者は「長く2部にいると、良くも悪くもぬるま湯に漬かった状態。市場再編のインパクトが想像できない」と打ち明けた。
グロースへの移行を決めた唯一の県内企業がカルナバイオサイエンス(同)だ。同社はジャスダックの中でも成長性を重視して上場基準を緩和した「グロース基準」で上場しており、順当な移行といえる。
■他社動向
県内上場企業の半数以上は、まだ目指す市場を表明していない。その中には流通株式に安定株主の持ち分を加えた全体の時価総額でも、プライム基準の100億円に満たない1部上場の約10社が含まれる=表③。
鋳物メーカーの虹技(姫路市)は経過措置を活用してプライムに行くか、スタンダードに申請するのか、他の上場企業の動向を見定めて対応を決める方針だ。担当者は「株主にとっては繊細な問題。毎月の取締役会で何度も議論している」とする。