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インド生まれ、精細な装飾品が人気 人と環境に配慮「エシカルアクセ」で注目 神戸の女性が販売に注力

2021.12.29
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インドの女性が丹精したアクセサリーなどを輸入販売する立花佳代さん=大阪市北区大淀南1、スプリング

インドの女性が丹精したアクセサリーなどを輸入販売する立花佳代さん=大阪市北区大淀南1、スプリング

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

スプリングが販売するインド生まれのアクセサリー

アクセサリーの製作を委ねるインド人従業員を訪ねた立花佳代さん(本人提供)

アクセサリーの製作を委ねるインド人従業員を訪ねた立花佳代さん(本人提供)

 神戸市灘区出身、在住でアクセサリー製造販売会社を営む立花佳代さん(55)は、インドの小さな村で丹精された装飾品の販売に力を入れている。洗練と素朴さが調和したデザインで、イヤリングやブローチ、ネックレス、革製のスリッパなどを扱う。試行錯誤を重ねて日本人が求める品質を実現し、製作を委ねる村の従業員の生活水準も向上しているという。人や環境に優しい「エシカル(倫理的な)アクセサリー」として注目を集めている。(大久保斉)

■ビーズ刺しゅうに魅せられ

 立花さんが代表取締役を務める会社「スプリング」(大阪市)は1999年に創業した。もともと民族系のファッションが好きだったことから、2004年にインドでの装飾品の製作を着想。インターネットで調べた同国の関連業者にメールで協業を呼び掛けた。返信が最も早く、誠実な内容だったのが現在のビジネスパートナー、プラギートさんだった。

 立花さんは臆せず単身で現地に乗り込み、大都市デリーから車で2時間、「ダドリー」という人口千人の小さな村の作業場にたどり着いた。プラギートさんは、オスマン帝国時代に伝えられ、欧州の貴族向けに輸出されていたという精細なビーズ刺しゅうを披露し、立花さんは協業を決めた。

 しかしここからが、苦難の連続だった。作業場の検品やこん包はおろそかで、試作品は砂やほこりにまみれたり、「これまでに見たことがなかった」(立花さん)虫がはい出てきたりした。仕様と異なる代物が届いたことは、1度や2度ではなかった。いくら修正を重ねても、望み通りの品質に達しなかった。

■新ブランド創設

 双方のやりとりはいったん途絶えたが、08年のリーマン・ショックで互いに苦境となったことから、起死回生に向けて商品づくりを再開した。

 立花さんは、ミシンの操作法や衛生的な作業環境づくりを指南した。日本の品質を知ってもらおうと、プラギートさんを大阪に呼び寄せ、自社の生産、検品、品番管理のほか、百貨店の宝飾品売り場での接客サービスや商品の陳列などを見てもらった。「日本ではここまでするのか」と、プラギートさんは驚嘆していたという。

 その後、3年をかけて日本で販売できるレベルの品質に到達し、スプリングの宝飾品を製作する専用ラインをプラギートさんに設けてもらった。13年に独自ブランド「メイグローブ・バイ・トライバルクス」を立ち上げた。

 完成品の取引の決済は独特で、現物を受け取ってから代金を支払うのではなく、相手に数カ月分の保証金を先に納める。「(プラギートさんとは)1回きりのビジネスではありません。先払いで相手への信頼が伝わり、安定した品質につながっていると思います」と、立花さんは話す。

■従業員の生活改善も

 現地従業員の生活改善にも努めている。栄養失調の女性が多くの子を産む国情を踏まえ、女性スタッフに避妊を教えた。非衛生的な生活環境から目の病気にかかる従業員もいて、眼科検診を受けさせた。「貧しさから少しでも抜け出せる一助になれば」との思いからだった。

 仕事を手にした村の女性たちは、稼いだお金で洗濯機や化粧品を買えるようになったという。こうした積み重ねから、業界関係者や消費者の間で「エシカルアクセサリー」との呼び声が上がった。

 現地は下水道が未整備で家の中にトイレがなく、戸外で用を足す。「衛生的に良くないし、女性は暴行事件に巻き込まれることもあります。排せつ物を微生物の力で分解する家庭用の『バイオトイレ』を配備したいですね」と力を込める。

 来年の前半にも、売り上げの一部をインドの生活環境向上に役立てるチャリティーブランド「メイグローブ・アース」の創設する予定だ。トラ、ゾウ、牛、サルのキャラクターをあしらったトートバッグ、マグカップなどの販売を目指す。

 立花さんが率いるスプリングの本社事務所の商談室には、数々のアクセサリーが並んでいる。5千~1万円が中心で、表面に刺しゅうされたビーズが清楚な輝きを放ち、商品全体に手作業ならではの独特のぬくもりが宿る。

 「身の丈に合った商売をしていると思います。ビジネスは規模の大きさでなく、正しいか正しくないかで考えるべきです。自分ができることをやりきっているという実感があります」と立花さん。売り手と買い手、世間に恩恵をもたらす「三方良し」の商取引が、日印の海を越えて繰り広げられている。

【たちばな・かよ】1966年、神戸市灘区生まれ。両親は、神戸・三宮の高架下商店街でストッキングの小売店を営んでおり、幼少期から商売の厳しさに触れた。大学を卒業後に渡英し、現地で知り合ったカメラマンと23歳で結婚するも、27歳で離婚。99年にスプリングを設立した。13年、アクセサリーブランド「メイグローブ・バイ・トライバルクス」を立ち上げた。同市灘区在住。