経済
墜ちたダイヤ~三菱電機 不正の構図(上) 不正報告「言ったもん負け」の組織風土
東京・丸の内、「三菱村」と呼ばれるオフィス街の一角にある三菱電機本社。
「不適切行為で、多大なる心配と迷惑をかけたことを改めておわびする」
漆間啓社長は25日夕、記者会見し、報道陣を前に頭を下げて陳謝した。同社では、昨年6月に検査不正が発覚。この日、外部の弁護士らでつくる調査委員会が3回目の報告を行った。
報告書で、神戸や姫路、三田、尼崎など兵庫県関連の7拠点・74件、全国で計15拠点・101件の不正が新たに判明。検査とともに製造現場での不正に絡む生々しいやりとりが並んだ。
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「(上司に不正を)報告したとしても担当者で解決するようにと言われるだけ。報告する意味はない」
姫路製作所(姫路市)の社員は、調査委の聞き取りに、こう証言した。同製作所では、顧客が指定した製造法を無視し、異なる方法で大手自動車メーカー向けの部品をつくっていた。
理由は「顧客が指定した方法で製造するには新しい設備が必要だったが、多額の費用がかかる。量産開始までの時間もなかった」から、と報告書は記す。
この部品はインバーター(電力変換器)。電気自動車(EV)のモーター回転数や出力を制御する。数多くの製品を手掛ける同社でも、主力の一つとされる。
担当者は調査委に「顧客から明確に指示されていた。異なる方法で製造しても構わないという結論になるとは到底考えられなかった」と述べた。
この事実が自動車メーカーに知らされることはなく、不正な製造は最近まで、6年以上続いた。
不正状態の是正を現場が求めても、上司は「自分で解決するように」と責任を押しつけてくるだけ。それなら言わない方がいい-。
「言ったもん負け」。調査委は、三菱電機の組織風土をこう表現した。
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県内関連の拠点別で最多の32件の不正が判明した三田製作所(三田市)。ここでも「言ったもん負け」の風土は根深い。
三田では2年前、現場社員が欧州の基準を満たさないと知りながら3年間にわたり、欧州向けにカーラジオを輸出していた不正が発覚。同社は、再発防止に取り組む方針を示した。
しかし、それ以降も定期抜き取り検査や、開発段階の試験をしないなど、不正は続いていた。
三田は自動車機器事業の拠点。1986年に開設され、社員約1600人が働く。同事業の主力拠点が姫路製作所で、43年に三菱電機発祥の地・神戸製作所の分工場として開設。正社員約3400人が所属する。
報告書は、不正の背景として自動車メーカーとの力関係に言及する。不正には、性能に影響しない検査をしなかったことも含まれる。報告書は「顧客に説明すれば(検査廃止の)了解を得られたと思われることでも、申し入れをためらう姿勢が見られた」とする。
立場の強い自動車メーカーからかかるプレッシャー。それを受け止める仕組みが社内になく、「見て見ぬふり」をする風土が広がっていった。
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「スリーダイヤ」のロゴマークで知られる三菱グループ。検査不正で揺らぐ三菱電機の実情に迫る。(高見雄樹)