経済
メタバースが熱い!新ビジネスが続々展開 音楽イベントや握手会、吉本芸人登場のバーチャル都市も
次世代のインターネットビジネスの中核として注目される3次元(3D)の仮想空間「メタバース」。兵庫県内でも新興企業や自治体が関連ビジネスに乗り出している。海外金融機関などによると、将来的な世界の市場規模は100兆円とも1千兆円ともいわれるが、まだまだ未知の世界。経営者らは、どんなビジネスが成立するか探りながら事業を進めている。現状を取材した。(広岡磨璃)
先月中旬、「メタバースのビジネス展開の可能性」と題するセミナーが、神戸・ポートアイランドで開かれた。オンラインを含めて参加者は約270人。定員の3倍近くも集まり、主催した神戸商工会議所の担当者は「こんなに集まったことは最近ない。関心の高まりを感じる」と驚いていた。
講師は、メタバース関連でメディア運営やコンサルティングを手がける「Mogura」(モグラ=東京)の久保田瞬社長。メタバースについて「要は3次元のインターネットです」と説明した。具体的には「家にいながら、自分の体を現実のように動かし、3次元空間で(買い物や仕事、レジャーなど)リアルな体験ができる」という。
メタバース空間の中に再現された大阪・梅田で、7月から8月21日まで音楽イベントが開催された。企画したのは阪急阪神ホールディングス(HD=大阪市)。バーチャルアイドルらが出演するコンサートや握手会が繰り広げられ、今年3月に延べ約7万人を集めた前回を上回る盛り上がりを見せた。
空間を利用するためのサービス基盤「プラットフォーム」は、IT企業モノアイテクノロジー(神戸市中央区)が開発・提供した。同社は2013年設立。メタバースビジネスで急成長し、従業員も100人を超えた。6月には同HDがつくるベンチャーファンドから資金提供を受け、さらなる事業拡大を目指す。
3Dコンテンツ開発のシマフジIEM(西宮市)も、同じくメタバース市場で、施設や店舗などを3Dで本物そっくりに再現する「デジタルツイン」と、プラットフォームの2事業に力を入れている。
19年に仮想現実(VR)用ゴーグルのレンタルで市場に参入。その後、有名ゲームのアニメーター経験者や海外出身の人工知能(AI)研究者ら人材の獲得に力を入れてきた。島藤真澄最高経営責任者(CEO)は「世界で戦える人材を集めた」と話す。
特にデジタルツインの構築サービスは、集客に役立つからと飲食店を中心に需要があるという。将来は、地方のものづくりや文化を海外に売り込むための空間づくりを構想する。
自治体もメタバースに関心を示す。養父市は吉本興業(大阪市)と連携して6月下旬、市の名所などを再現した「バーチャルやぶ」を開設した。アバター(分身)となって明延鉱山などの観光地を巡ったり、吉本芸人が登場するゲームを楽しんだりできる趣向で、1カ月弱で延べ約4700人が訪問。仮想空間を体験後、実際に養父市役所に足を運んでバーチャル市役所と見比べる人もいたという。
開設は「市まちづくり計画」に沿った事業で、22年度予算に約3千万円を計上した。市経営政策・国家戦略特区課の担当者は「費用対効果がすぐには見えないと承知で、成功事例のまだない分野に飛び込んでいる」と説明する。その上で、「人口減は避けられず、デジタル空間を通じた『つながり人口』を増やす糸口になれば」と続けた。メタバースに過疎地の希望をつないでいる。