経済
乳牛も快適 ブルーライト少ない「無電極ランプ」、酪農界で注目 神戸の商社に注文増
乳牛を飼育する牛舎で、目に優しいとされる「無電極ランプ」の利用が広がっている。酪農は乳牛が光を浴びる時間が長いほど乳量が増え、照明のコントロールが欠かせない。同ランプを扱う神戸市中央区の工業資材商社「コタニ」でも注文が増加。発光ダイオード(LED)よりも注目度が高まっている。(森 信弘)
日が暮れた兵庫県小野市大開町の藤岡牧場。餌を頬張る乳牛を天井の無電極ランプが煌々(こうこう)と照らす。牛舎の一部建て替えに合わせ、2020年11月に22台を設置。経営する藤岡正彦さん(54)は「明るいのにまぶしくなく、目が疲れない。牛も楽そうに見える」と話す。
省エネではLEDが知られるが、無電極ランプは、劣化しやすい電極を使わない仕組みで寿命が長いという。コタニは工場や検査場向けに販売していたが、17年ごろから北海道や静岡県の牛舎から注文が入りだした。小谷哲也社長(61)は「なぜか分からなかった」と振り返る。
当時、広島大大学院の杉野利久教授(家畜飼養管理学)が白色LEDの光に含まれるブルーライト(青色光)が乳牛にストレスを与えると全国に発信していた。青色光は人間の睡眠への影響なども指摘される。牛舎では、水銀灯や蛍光灯に代わり経済的なLEDが広がりつつあったが、無電極ランプは青色光が少ないことで需要が生まれていた。
兵庫県内の酪農家約50戸でつくるハイクオリティミルク農業協同組合(神戸市中央区)は「県内でも牛舎を新設する牧場は、無電極ランプを選ぶ」とする。
コタニが牛舎向けに販売した無電極ランプは17年に1社4台だったが、21年は4社114台に増え、売り上げは約17倍になった。ホームページに導入事例などを掲載。問い合わせも増えているという。
小谷社長は「蛍光灯の補助照明としても使える。無電極ランプの売り上げのうち牛舎向けはまだ数%だが、展示会に出展するなどして売り込んでいきたい」と話している。
■家畜のストレス管理重要 広島大・杉野教授
家畜を快適な環境で飼育してストレスを減らす「アニマルウェルフェア」を重視する考え方は、世界的に広がっている。広島大大学院の杉野利久教授(家畜飼養管理学)は「新技術を使ったスマート農業も、ウェルフェアとセットで考えるべきだ」と指摘する。
杉野教授は2013年から牛舎の照明が牛に与える影響を研究し、牛がストレスを感じると分泌されるホルモン、コルチゾールに着目。白色発光ダイオード(LED)ライトで、ブルーライト(青色光)をカットしたケースと、しない場合を比較した。結果、血中のコルチゾールの値はカットしない場合が高く、食べる餌の量も減ったという。
昨年11月~今年2月には、工業資材商社コタニ(神戸市中央区)と連携し、白色LEDと無電極ランプも比較。白色LEDの方が血中のコルチゾールの濃度が高くなった。現時点で乳量などへの影響は不明だが「長期的には搾乳や繁殖に影響があるかもしれない」と話す。(森 信弘)