経済
アマゾン、ESR…大規模物流施設、兵庫に続々建設 新名神全線開通、関西万博控え需要拡大
兵庫県内で、大規模物流施設の建設が相次いでいる。新型コロナウイルス禍の外出自粛を機に電子商取引(EC)市場が伸びたことで、大消費地に近く、迅速に配送できる物流拠点の需要が拡大していることが背景にある。高速道路網の充実や、2025年の大阪・関西万博に向けた経済活性化への期待も後押しする。企業の用地獲得競争は神戸・阪神間を中心に熱を帯び、土地を生み出し誘致につなげようとする自治体も出てきた。(西井由比子)
■広がる当日配送
経済産業省の調べによると、21年の国内の消費者向けEC市場規模(物販)は、コロナ前の19年比32・2%増の13兆2865億円に。さらなる成長が見込まれている。
EC事業者は、消費者により早く商品を届け、顧客満足度を高めようとしのぎを削る。
EC大手アマゾンジャパン(東京)は今年3月、延べ床面積約10万平方メートルと同社物流施設として関西最大規模の「アマゾン尼崎フルフィルメントセンター」を同県尼崎市東海岸町に開設。商品1千万点超を納める内部で、自走式ロボットが縦横に動き回り効率配送を支える。同社担当者は「関西圏では(注文後)『当日配送』『翌日配送』できる商品を増やせる」と胸を張った。
香港にグループ本社を置く物流施設開発・運営のESR(東京)も同じ3月、同県川西市内の山中に物流拠点の新設を発表した。広さは、東京ドームの10倍に上る計約50万平方メートルと「国内最大規模」(同社)。24年中に1期2棟を完成させる計画だ。
現場は、新名神高速道路の川西インターチェンジ(IC)にほど近い。新名神は、既に名神高速道路と交わる高槻ジャンクション(JCT、大阪府)までが開通済み。27年度予定の全線開通後には、神戸市と三重県四日市市が1本でつながる。
新名神を巡っては、先に米物流不動産大手プロロジスの日本法人(東京)が昨年、兵庫県猪名川町に2施設をオープン。延べ床面積計約38万平方メートルには、大手物流企業などが入り、2年かけて本格稼働を目指す。
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■開幕まで2年半
開幕まで2年半を切った万博への期待も膨らむ。関西だけで2兆円を超える経済波及効果が期待されている。経済活性化に伴う物流増加をにらむのは、物流不動産開発・日本GLP(東京)だ。
同社は、これまでに尼崎市内だけで3棟(延べ床面積計16万6千平方メートル)を稼働。さらに今年、同市道意町で「GLP尼崎IV」(延べ床面積2万8800平方メートル)、「GLPアルファリンク尼崎」(同約37万平方メートル)の2拠点の建設計画を発表した。帖佐(ちょうさ)義之社長は、尼崎を「関西の物流の要衝」と位置付け、「逼迫(ひっぱく)する需要に応える」として関西での用地確保に注力する。
急激な円安も外資系会社の動きを勢いづけるとみられる。
だが、関西は関東に比べてまとまった用地が少ないのが課題。国内では製造業の縮小が進み、工場跡地が物流施設に置き換わった尼崎市でも「GLPアルファリンク尼崎が進出した古河電気工業の工場跡地が、現状では最後の大規模跡地だったとみられる」(市経済活性課)。
用地獲得競争が過熱する中、神戸市は昨年度、新たな土地の創出に乗り出した。市内の物流施設用地は完売し、製造工場用も残りわずかだった。
そこで目を付けたのが、神戸淡路鳴門自動車道、山陽自動車道の神戸西IC近くの西神戸ゴルフ場(約100万平方メートル、同市西区押部谷町)だ。物流用地を含む産業用地として転用する方針を打ち出した。23~24年度に造成を始め、26~27年度に分譲を開始する計画を掲げる。市内陸・臨海計画課は「需要が高まる今、何とか早期に対応していきたい」としている。
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■海外主流、投資リスク 「賃貸型」が近年増加
近年増加が目立つのは、日本GLP(東京)など不動産開発事業者が整備し、複数の企業に貸し出す「マルチテナント型」と呼ばれる多機能物流施設だ。
国内では、倉庫は企業が自前で構えるのが主流だった。しかしこの20年間で、海外に多く見られる賃貸型施設の需要が拡大してきた。大規模な投資が必要な不動産を持たずに済むメリットがあるためだ。電子商取引(EC)の隆盛で、個人宅への配送など小規模なニーズが増えたことも背景にある。
物流施設のニーズはいつまで続くのか-。不動産サービスのCBRE(東京)は「国内には旧耐震構造の古い施設がまだ多く、新施設の需要は底堅い」と分析する。
さらに、働き方改革に伴う「物流の2024年問題」も浮上する。時間外労働の上限規制に基づき、運送ドライバーの長時間労働が是正される一方で、1人当たりの走行距離が短くなり、長距離配送が難しくなるのだ。同年4月の働き方改革関連法施行を前に、消費地に近い効率的な物流拠点の需要はさらに高まることになりそうだ。