経済
角を丸く切り、針金でとじる…製本業の技術でこだわりのノート 神戸の村井製本所が独自ブランドで販売
印刷物を本の形に整える製本業の技を伝えたいと、神戸市兵庫区の村井製本所が独自ブランドのノートを売り出した。角を丸く切ったり、紙を金色の針金でとじたりと細部にこだわりがにじむ。自社ウェブサイト中心の販売だが、初めて個人から注文が入るなど、事業機会が広がっている。(高見雄樹)
ブランド名は、同社の英語表記と同じ「MURAI BINDERY(ムライバインダリー)」。村井広治社長(50)は「紙を切り、折り、とじる日常の仕事から生まれた商品。製本の魅力を感じてほしい」と、6月に発売した。
15センチ四方の中型(638円)と縦14センチ、横9センチの小型(2冊1144円)の2種類。64ページの無地で表紙は4色から選べる。中型ノートを収納できる革製のケース(1万3750円)も、革小物ブランド「4103(ヨンイチマルサン)」を手がける清冨雅子さん(38)=神戸市長田区=と完成させた。便箋や手帳なども品ぞろえに加える。
情報のデジタル化で印刷物の需要が減り、業界の環境は厳しい。村井さんによると、阪神・淡路大震災の前後に兵庫県内で約30社あった製本業者は12社に半減した。
ノートづくりは、消費者や読者と直接つながりたいと、文具プランナーの川崎和也さん(46)=同市垂水区=とともに進めた。製本所は、印刷会社が持ち込む紙を寸法通りに切り、針金などでとじて本にする。針金は一般的な銀色のほか、金や銅色を使うことも。本の角を丸めるなど加工次第で印象は変わる。川崎さんから「業界の常識が、消費者には新鮮に映る」と指摘を受け、企画を進めた。
販売実績はわずかだが、学習塾の講師や絵本の製本を求める個人から、本業の問い合わせが入り始めた。
同社は12月にも、後継者がいない市内の製本所を統合する。社員は5人から11人に増え、新規事業に取り組む余裕もできる。村井さんは「書いたり読んだりする楽しさを伝え、製本業を次の世代につなげたい」と挑戦を続ける。同社TEL078・335・7482、https://muraiseihonsyo.co.jp/