経済
ドライアイスを使わずに超低温輸送 シスメックスやヤマトが開発 CO2もコストも削減
医療用検査機器メーカーのシスメックス(神戸市中央区)は、ドライアイスを使わずに超低温で診断薬を輸送する仕組みを、ヤマト運輸などと開発した。年間90トンのドライアイス使用量が、2023年度中にはゼロになる。二酸化炭素(CO2)排出量が減るだけでなく、輸送コストも約半分に削減できる。
シスメックスは血球計数検査の世界トップ企業。多様な検査を扱い、その診断薬を低温で運ぶ必要がある。また、患者ごとに最適な治療を提供する「個別化医療」で遺伝子検査に使うバイオ診断薬では、薬に含まれる細胞の機能を一時的に抑えるため、超低温での輸送が求められるという。
両社はいずれも神戸・ポートアイランドの医療産業都市に新技術の開発拠点があり、プロジェクトを率いたシスメックスの小野隆上席執行役員(58)が19年4月、近くのヤマトの拠点を訪れ、課題を話し合ったことをきっかけに開発がスタート。約1年で実用化にめどを付けた。
従来はドライアイスが不可欠だったが、超低温技術に強いエイディーディー(静岡県沼津市)の協力で、専用の冷凍庫を使い零下70度以下に冷やせる保冷剤を開発。専用容器に入れて、低温で運べる仕組みを構築した。容器に取り付けたセンサーで、輸送中の温度や湿度、衝撃も常時監視する。
ドライアイスは、石油精製の過程で出るCO2で生産。現在、エネルギー需要の低迷で供給量が減る一方、宅配向け需要が増えて価格は上昇している。
新たな仕組みにより、CO2の排出減に加えてドライアイスの調達費用がゼロになる。これまでは低温を保つためにトラックをチャーターしていたが、ヤマトの小口配送網を使えば輸送コストを削減できる。
今後、食肉など食品分野への拡大も期待。再生可能エネルギーでつくった電気で保冷剤を冷やすなど、環境対応も進める方針だ。
小野氏は「既存の技術を統合するだけで大きなイノベーション(革新的な価値創造)が生まれた。用途の拡大に向けて(企業連携で新事業を生み出す)オープンイノベーションを進め、社会全体で脱炭素を目指したい」と話している。(高見雄樹)