経済
預金規模は「お化け」級、タイガース定期に集まる注目 想定外の勝利数に「当たり」の行方は…
阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝に向けて突き進む中、尼崎信用金庫(兵庫県尼崎市)の「がんばれ阪神タイガース定期」に注目が集まっている。同定期に100万円以上を預けていれば、通常の金利とは別に、最高79万円分の商品券が当たる可能性があるからだ。定期預金の規模は業界トップ級。来年で募集開始から四半世紀となる看板商品を「解剖」してみた。
タイガース定期は1999年、故野村克也氏の監督就任を機に、地域みんなで球団を盛り上げようと企画した。プロ野球やサッカーチームを対象にした「スポーツ応援預金」のはしりとされ、ほかの金融機関からの問い合わせが相次いだ。
預金の商品設計は経済情勢やチームの成績などに応じて見直しており、現在はリーグ戦勝利数に応じて最大79万円分の商品券が100人に当たる。68勝の昨年は68万円分だったが、今季は11日時点で77勝を挙げており、上限に達する可能性が高い。チームのホームラン数(11日時点69本)と同じ人数に、5万円分の商品券を贈る賞もある。
毎年キャンプインと同じ2月1日に募集を始め、期限の4月末までに2500億~2800億円を集める。信金の中央組織、信金中央金庫(東京)によると、業界では城南信金(同)の懸賞金付き定期と並ぶ「お化け定期」という。その規模は、淡路島と播磨地域などに22店舗を構える淡陽信用組合(兵庫県洲本市)の総預金量に相当する。
○バロメーター
預金は1年ごとに自動継続されるが、増減はある。過去20年間の預金量に順位を重ねると、面白い相関が見えてきた=グラフ。
2002年以降、前年から順位を上げた年が9回ある。翌年の預金額に注目すると、うち7回は前年よりも増えていた。逆に前年から順位を下げた10回のうち7回は、翌年の預金額が減った。チームが上昇基調なら預金も増えており、期待のバロメーターのようだ。
今年は2480億円と前年比5・6%(146億円)減り、過去4番目に少なかった。22年のチームは3位と、前年の2位から順位を下げており、法則に当てはまる。
「それだけが理由ではありません」と話すのは、タイガース定期の商品設計を担う総合企画部の平山裕司担当部長(48)。低金利が続く中でも株価は堅調なため、「少しでもリターンを求めたいお客さまには、定期ではなく投資信託も勧めている」という。タイガース愛はあるものの、よりもうかる商品へ-ということか。
○進化
地域別の預金者は、尼崎市▽同市以外の兵庫県▽大阪府-が3割ずつ。残り1割はインターネットの「ウル虎支店」で全国から集まる。預金者の高齢化が進む中で幅広い年代から集金しているのも特長。毎年デザインが変わる通帳型の預金証書も人気だ。
預金は当初、順位に応じて金利を優遇していた。1999年の初回は優勝なら金利が3倍、2位なら2倍に。2002、03年は故星野仙一監督の背番号にちなみ、優勝の金利を7・7倍に引き上げた。
ただ、景気低迷で超低金利が続き、「○倍」の魅力が低下。07年からは金利をあきらめ、順位によって商品券が当たる方式に改めた。優勝は5万円、2位が3万円、3位は2万円-。いずれも1万本の当たりを入れ、約250本に1本の確率で当たるように設定した。
チームは05年以降、優勝から遠ざかる。高額の還元ができず、19年から勝ち星やホームラン数を基にした現制度に改めた。反応は上々で、「最大79万円の商品券が当たるのは魅力的」と、東京の某ライバル球団ファンも預金しているとか。
○将来像は
「営業先で『タイガース定期の尼信です』と切り出せば、話を聞いてもらえる。共通の話題は大きな武器」と平山さん。四半世紀を経てブランドを確立したタイガース定期は、どこまで進化するのか-。
平山さんは「2年後には2軍球場が尼崎市に移転しますね」とヒントをくれた。阪神電鉄大物駅近くの小田南公園に25年、完成予定の新球場は、環境に配慮したエコ仕様になるという。「タイガース定期にも持続可能性(サステナビリティ)の視点を入れ、さらによい商品に」と先を見据えた。(高見雄樹)