ひょうご経済プラスTOP 連載一覧 明日を拓く 震災と停滞の先に 第3部 オリバーソース社長 道満雅彦さん (1)工場全焼

第3部 オリバーソース社長 道満雅彦さん

(1)工場全焼
社員の“形見”に誓う

2014.08.14
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「震災からの復活は、新たに創業するようなものだった」と語る道満雅彦さん=神戸市中央区港島南町3(撮影・宮路博志)

「震災からの復活は、新たに創業するようなものだった」と語る道満雅彦さん=神戸市中央区港島南町3(撮影・宮路博志)

阪神・淡路大震災の当日、道満さん(中央)が駆けつけた時、本社工場は炎に包まれていた(道満さん提供)

阪神・淡路大震災の当日、道満さん(中央)が駆けつけた時、本社工場は炎に包まれていた(道満さん提供)

 阪神・淡路大震災とその後のデフレ不況を生き抜いてきた経営トップへのインタビュー連載企画「明日を拓(ひら)く」。シリーズ第3部は、「とんかつソース」を世に出したオリバーソースで3代目社長を務める道満雅彦さん(61)。19年前の震災で工場が全焼し、中堅社員1人が亡くなった。商品開発に力を入れようと研究棟を新築したところだった。廃業も考えたという道満さんの元には今、東日本大震災の被災経営者から体験を聞かせてほしいと依頼が舞い込む。

(黒田耕司)

 -東日本の被災地に招かれ、講演した。

 これまでに4回、講演で東北に足を運んだ。被災状況や地域性など阪神・淡路との違いは多いが、皆、逆境を何とかしてチャンスに変えたいと思っている。だから厳しいことも率直に言うようにしている。

 -どんなことを。

 阪神・淡路が起きた1995年はボランティア元年ともいわれるが、要するに被災地支援の仕組みが不十分だった。行政の対応が後手に回る中、誰もが明日を生きる手段を自分で確保しようと駆けずり回った。

 当社は、23(大正12)年に祖父が創業した神戸・新開地近くの土地を震災で手放し、神戸ポートアイランド2期に移った。私は本社兼工場内の自宅で生まれ育ったので身を切られる思いだった。東北の被災者が「元の場所」にこだわる気持ちは分かる。でも復興を遂げるには、こだわりを捨てざるを得ないときもある。

 -その思いに至った自身の体験を。

 あの朝、東灘区の自宅マンション5階で突き上げるような衝撃を感じた。戦争でも始まったんかと思った。家族の無事を確認し、外に出ようとしたらドアが変形して開かない。体当たりでこじ開け、車で兵庫区の本社へ向かった。

 通行止めで進めなくなり、車を乗り捨てて歩いた。本社到着はおそらく午前8時ごろ。炎が上がっているのが目に入った。燃えていたのは、うちの工場。あらあら、うそやろ、夢を見とるんちゃうかと。

 -実感がわかなかった。

 そう。でも、とにかく消火しようと水を探した。敷地内にボイラー用の重油タンクがあり、引火すれば火の海になってしまう。ふと、隣の民家にあった井戸が頭に浮かんだ。枯れていたはずだが、すがるような思いで見に行くと満々と水をたたえていた。奇跡だと思った。

 近所の人たちと20人ほどでバケツリレーを繰り返し、タンクに火が近づかないようにした。完全に煙が出なくなったのは3日後。本社工場7棟のうち3棟が焼け、2棟が倒壊。建設して2年ほどの研究開発棟と倉庫だけが残るありさまだった。

 -社員も亡くなった。

 震災4日前の1月13日にソースを炊いた40代の男性社員が犠牲になってしまった。震災当日の17日は3連休明けだった。彼は別のソースの仕込みをするために、いつもより早く家を出た。そして自宅の前で、倒壊した別の建物の下敷きになって…。

 -その時点で、会社の今後をどう考えた。

 研究棟やタンクの更新に2億円ほど投資したばかりだったし、廃業するしかないかと思った。戦時下、神戸空襲で工場が全焼し、そこから復興させた先代社長のおやじはつらいだろうが、いくらか持っている不動産で駐車場やマンションの賃貸でもやるか、とね。

 そんな中、亡くなった社員が炊いたソースのタンクが鎮火した工場から見つかった。タンクはすすけ、傾いていたが、ひしゃくですくって味見すると、中身は無事だった。社員が残してくれたソース。これを必ず世に送り出す。そのうち社員もぱらぱらと集まってきた。誰も会社がつぶれるなんて思っていなかった。このソースと社員とともに前に進もう。そう誓った。

▽どうまん・まさひこ 1952年神戸市兵庫区生まれ。75年、甲南大経営学部卒業。同年4月にオリバーソースに入社した。大阪支店長などを経て、91年4月に社長に就任。「どろソース」「クライマックス」「しょース」などのヒット商品を生み出した。同市東灘区在住。

〈オリバーソース〉 日本ならではのどろりとした「とんかつソース」を他社に先駆けて開発し、お好み焼き、たこ焼きなどの「粉もん」の普及に一役買った。創業者は道満雅彦さんの祖父で、大阪のしょうゆ醸造蔵に生まれた清さん。家庭用と業務用ソース、お好み焼きなどの冷凍食品を手掛ける。本社は神戸市中央区。資本金9960万円。従業員56人。2013年9月期の売上高は約20億円。