カイシャの顔
(1)イトメン ハエっぽい「とびっこ」とかわいい2代目「アカネちゃん」
商品に、工場に、時にテレビCMに。ふと目にするあのキャラクターや、不思議に見えたあのロゴマークに詰まるのは、企業の哲学や歴史、社員の思い。会社の顔とも言うべきシンボルはいかに生まれ、いかに日々を歩んできたのか。この夏、取材班一同でひもといてみた。
■モチーフは「とんぼ」です
ひどい言われようだ。スーパーマンにカエル、果てはハエとさえ。即席乾麺の製造販売、イトメン(たつの市)のキャラ「とびっこ」のモチーフがとんぼとは、まるで理解されない。2代目キャラの登場で引退危機すらあった。それでもなおファンに愛され続け、来年には“還暦”を迎える。
無塩製麺とさっぱり味のスープを特徴に、今や年間2千万食を売る同社の看板商品「チャンポンめん」。世に出た1963年、同時に公募によってとびっこも生まれた。デザインは誰が?名前の由来は?など不明点も多いが、地元の童謡「赤とんぼ」にちなんだとんぼの女性という設定で、同社の他の商品パッケージにも長く君臨してきた。
だが2013年、とびっこを引退の危機が襲う。チャンポンめん発売50周年記念で、販促強化に2代目キャラを募集することになった。とびっこはその姿から「裏側をどうしてええか分からへん…」と、販促定番の着ぐるみ制作すら断念した経緯があった。
応募1574通の中から2代目「アカネちゃん」が選ばれた。愛らしい目に、一目でとんぼと分かる羽姿。初代を圧倒するかわいさが、社内に議論を巻き起こす。とびっこ、潮時じゃないか-。
救ったのは消費者だった。募集開始とともに「まさか消えないですよね」と熱く湧き上がる声、声、声。広報担当の伊藤しげりさんは振り返る。「チャンポンめんを支えてくれるお客さまの意見が一番だった。とびっこも含めてチャンポンめん、と再認識しました」
とびっことアカネちゃんは今、併用されている。22年7月現在の社員人気こそ6対4でアカネちゃんに軍配が上がるが、とびっこも「かわいくない。でも愛着がある」と底堅い人気を誇る。今も「あのキャラ、何ですか」という問い合わせがあるが、それをきっかけに会話が弾むという。企業と消費者と。その間を、今日もとびっこが飛び交っている。
(大盛周平)
【イトメン(たつの市)】1945(昭和20)年、製粉業で創業し、50(同25)年に前身の伊藤製粉製麺を設立。58年に日清食品(大阪市)に次いで、即席袋めんを開発した。食塩を加えない「無塩製麺法」が特徴。資本金6930万円、従業員100人。