カイシャの顔
(16)パルナス製菓 心に息づく懐かしの旋律 歌うのは中村メイコさん
会社はなくなって久しいが、そのメロディーは今も中高年の関西人の心に息づいている。
「♪ぐっとかみしめてごらん ママの温かい心が~」「♪甘いお菓子の お国の便り おとぎの国のロシアの夢のおソリが運んでくれた パルナス、パルナス、モスクワの味~」。もの悲しげなロシア民謡風の曲調で中村メイコさんが歌う洋菓子製造販売「パルナス製菓」のCMソング。コーラスで引き立てるのは、男性グループのボニージャックスだ。
赤ちゃんの笑顔に続いてロシア風のたまねぎ屋根の建物も現れ、旧ソ連がまだ未知の国だった時代におとぎの国のイメージをかき立てていた。
放映は関西で1960年ごろに始まった。特に60~80年代、日曜朝の子ども向け番組で「ムーミン」「アルプスの少女ハイジ」など人気アニメの再放送と流した影響は大きく、子どもたちの記憶に深く刻まれた。
「パルナスのケーキはとてつもなくおいしいのだろうと憧れていた」。2017年にパルナスの魅力を発掘する「パルナス復刻委員会」を立ち上げた会社員藤中健二さん(59)=加西市=が言う。店舗が身近になかった藤中さんは、同社の洋菓子や調理パン「ピロシキ」を食べたことがない。だが、後に創業者の古角(こかど)松夫さん(故人)が同市出身と知り、ゆかりの品などを紹介するイベントを同市や神戸、大阪で開いてきた。それほどまでにCMの印象は強烈だった。
「CMソングを聞くと口ずさんでしまう」。イベントにやってきた人々は口をそろえる。CMに出演していた赤ちゃんの両親が来場したこともある。本人は米国ですし店を営んでいるとか。
2年ほど前、藤中さんは熱烈なパルナスファンとして知られる歌謡グループ純烈の元メンバー小田井涼平さん(52)と知り合った。「何か一緒に企画できれば」と話しているという。
「パルナスは、関西の文化遺産やと思うんです」と藤中さん。昭和から令和へとCMが時代をつなぐ。
【誕生】1960年ごろ
【特徴】特撮番組「海底人8823(はやぶさ)」のCMとして放映されたという説などがある。その生命力はバラエティー番組「探偵!ナイトスクープ」でも取り上げられた。「パルピロ」編やクリスマス編なども制作された。
【パルナス製菓(会社清算)】加西市出身の古角松夫氏(故人)が1948年、神戸・三宮でケーキの製造販売を始め、52年に大阪市で株式会社化。後に大阪府豊中市に移転した。高度成長期を中心に関西各地で200店以上を構えたが、2000年に営業を終えた。看板商品ピロシキの味を受け継ぐカフェベーカリー「モンパルナス」はいまも同市で営業する。