カイシャの顔
(5)カネテツ 永遠の少年「てっちゃん」もう71歳 中島らも氏の広告でブレーク
つぶらな瞳にぷっくりとした頬。練り製品のカネテツデリカフーズ(神戸市東灘区)のキャラクター、「てっちゃん」は永遠の少年といった風情だが、誕生したのは1951年。マーケティング室の加藤諒子室長は「年齢詐称はしていません。ちゃんと71歳と公表しています」ときっぱり。
てっちゃんは村上寛(ゆたか)社長の祖父にあたる2代目の忠雄社長の幼少期をモデルに作られた。かまぼこのキャラクターとしてはかなり斬新で、70年代にはテレビのCMや天気予報など、関西を中心に大活躍した。
てっちゃんを一躍、全国区に押し上げたのは、作家の故中島らも氏。村上健(けん)会長と中学高校の同級生で、雑誌広告として82年から「啓蒙(けいもう)かまぼこ新聞」を連載。練り物の宣伝とは全く関係のない話が展開されたが、その型破りな広告は大きな反響があったという。
この新聞には、てっちゃんの父親も登場する。優等生っぽいてっちゃんだが、意外なことに「父ちゃん」はサングラスにくわえたばこと、ちょい悪オヤジ風。カネテツによると、父ちゃんは「公式キャラであるような、ないような微妙な存在」だという。ほとんど登場しない母親が家計を支え、父ちゃんは無職なのでは、とファンの間ではうわさされているらしい。
啓蒙新聞の連載は終わったが、「自由なDNAは受け継がれ、オリジナリティーのある製品を作る起点になった」(加藤室長)という。「あれが許されたのだから」と、斬新なアイデアが次々と生まれ、その精神は、カニかまぼこの「ほぼカニ」を始めとした「ほぼシリーズ」に継承された。
父ちゃんも健在だ。登場回数は少ないものの、父の日や、お酒のおつまみに合う製品の宣伝を任されている。実年齢はさておき、未成年に見えるてっちゃんでは差し障りがあるためという。
今でも、てっちゃんにはファンレターが届く。「孫が似てきました」と写真が入っていたり、バレンタインチョコが届いたり。律義なてっちゃんは、ちゃんと個々にお礼を伝えているんだとか。さすが、昭和の男。(塩津あかね)
【カネテツデリカフーズ(神戸市東灘区)】1926(大正15)年に西宮市で練り製品製造業を創業、85年に現社名に。2012年に手作り体験施設「てっちゃん工房」を開設。2021年9月期の売上高は110億円。従業員399人。