2011年3月12日、東京電力福島第1原発で1号機が水素爆発を起こす。東日本大震災の大津波で全電源を喪失し、冷却できなくなった核燃料が過熱したためだ。14日に3号機、15日には4号機も爆発する。
巨大な煙を噴き上げる映像は、国内外に大きな衝撃を与えた。チェルノブイリ原発事故と同じく、史上最悪の「レベル7」と評価された福島の事故発生から10年がたった。
使用済み核燃料の搬出は遅れ、溶け落ちた燃料(デブリ)の取り出しは着手されてもいない。廃炉には早くても、あと20~30年という気の遠くなるような月日がかかる。その道のりを、原発に依存しない地域の再生へとつなげなければならない。
◇
今年2月、東電は第1原発3号機内にあった使用済み核燃料の取り出し作業を終えた。4号機に続く節目となった。しかし廃炉作業は予定通りに進んできたとは言い難い。3号機の作業開始は5年ずれた。1、2号機の開始も大幅に遅れている。
使用済み核燃料以上に難関とされるのが、デブリの取り出し作業だ。原子炉内の燃料が事故で溶け落ちたもので、合わせて900トン近くあるとされる。
21年度に2号機で始める予定だった作業は、新型コロナウイルスの影響で1年ほど延期された。1、3号機はいつ始められるか分からない。
昨年、日本原子力学会は敷地が再利用できるまで、最短で100年以上とする報告を出した。処分方法が定まらない放射性廃棄物は約780万トンに上るとの推計も示した。
ところが廃炉完了を事故から30~40年後とする目標は、当初と変わらない。東電は「デブリを全て取り出すことは十分可能だ」とし、完了年次も達成できるとする。
厳しい現状を見れば、うのみにはできない。政府と東電はなぜ「できる」と言えるのか、その根拠を国民に分かりやすく示すべきである。
国の責任で決定を
もう一つ、廃炉を妨げるのが汚染水対策だ。デブリを冷やす水などが大量の汚染水となっている。浄化した処理水は120万トン以上になり、貯水するタンクも千基を超えた。容量が限界に近づく中、政府は海洋放出を有力案として検討している。
問題は放射性物質トリチウムが除去できないことだ。漁業関係者は風評被害を懸念して放出に反対する。魚介の放射性物質は減ったものの、2月、水揚げしたクロソイから基準値の5倍の放射性セシウムが検出された。海への放出となれば、関係者の不安はなおさらだ。
陸地での長期保管を求める案もあるが、原発が立地する町にはそれに反対する声がある。地元の意向も一致しているわけではない。
決定の責任を負うのは国である。菅義偉首相は「できるだけ早く政府として処分方法を決めたい」と述べる。風評被害の対策や漁業の支援、また住民、漁業者、消費者が理解し納得できる説明が欠かせない。
依存を続ける日本
ドイツは来年末に全原発の廃止を実現させる。脱原発の政策は、福島の事故を機に決めたものだ。
これに対し日本はどうか。菅首相は昨年10月、温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにすると宣言した。その実現に向け、政府は原発への依存を継続する方針で、安定供給のための重要な電源と位置付ける。「例外」としていた40年を超える老朽原発も再稼働させる方針だ。
福島の事故を深刻に受け止め、教訓にする姿勢は感じられない。
当時、さらに重大な事態となる「最悪のシナリオ」もあった。大量の放射性物質が放出され、首都圏を含む250キロ圏内の5千万人が避難せざるを得ない-というものだ。それを防げたのは、現場の懸命な作業などに加え、4号機にあった水が燃料プールに流れ込むなど、偶然の産物にすぎない。もし「最悪」が現実になっていたら、政府は原発依存を続けるとは決して言えまい。
事故の約10年前、福島県のエネルギー政策検討会は議論を重ね、地域振興のためには発電所に依存する経済から自立することが必要とした。そして「(原発が国策なら)廃炉を見据えて、その後の自立的な地域への円滑な移行が図られるよう制度を整備すべき」と国に求めていた。
国内に建設された商業原発は57基で、そのうち24基の廃炉が決まっている。第1原発の「廃炉後」を描くことは、福島の再生に直結する課題だ。それは国土全体の将来にも関わる。福島が投じた問いを、政府は今こそ重く受け止めるべきだ。