米国のバイデン大統領が就任後初めて来日し、岸田文雄首相と首脳会談を行った。インド、オーストラリアも加えた4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合も開くなど「自由で開かれたインド太平洋」に関与する超大国の姿勢を印象付けた。
米国は日本が安全保障の後ろ盾とする唯一の同盟国である。ロシアによるウクライナ侵攻で平和が脅かされる中、バイデン氏が「防衛への全面的な関与」を約束したことは、日本にとっての成果と言える。
脅威はロシアの行動にとどまらない。軍事力を急拡大する中国や、国連安保理決議を無視して核・ミサイル開発を進める北朝鮮にどう向き合うかも日米共通の課題だ。
ただ、日本は専守防衛を国是とする。米国の世界戦略との適切な距離がこれまで以上に問われるだろう。
両首脳は中国を念頭に「力を背景とした現状変更の試みに強く反対する」と語った。ロシアの暴挙に向けた批判のメッセージでもある。
気がかりなのは、両首脳が核兵器と通常戦力による「拡大抑止」の重要性を確認し、同盟強化を打ち出したことだ。ロシアのプーチン大統領が核使用を示唆し、対抗策が議論されているが、核を含む軍拡競争に陥る危険性を忘れてはならない。
首相は、日本が議長国を努める来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を地元の広島市で開催すると発表した。核の脅威と軍縮・平和の重要性を提起したいとの思いからだろうが、「核の傘」を前提とした拡大抑止とは明らかに矛盾する。
国内には、安倍晋三元首相が唱える米国との「核共有」など「核なき世界」の願いに反するような動きもある。「唯一の被爆国」に疑問が持たれる言動は避けるべきだ。
ところが、首相はバイデン氏に防衛費の「相当な増額」の決意を伝えた。専守防衛を逸脱する恐れが指摘される「敵地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、「あらゆる選択肢を排除しない」とも述べた。
いずれも安倍氏ら自民党保守派の要求を踏まえた対応である。1%程度で推移してきた防衛費の増額を十分な国会論議もなく同盟国に明言したことへの批判は免れない。
一方、バイデン氏は中国が台湾を攻撃した際の軍事的関与の意志について「イエス(ある)」と答えた。従来の「戦略的あいまいさ」を超えた発言として波紋を広げている。
万一、台湾有事となれば、日本は米軍を支援することになり、憲法違反の指摘がある集団的自衛権の行使も現実味を帯びてくる。今回の首脳会談で軍事衝突を回避する外交など緊張緩和の方策があまり議論されなかったのは、残念でならない。
