錦鯉(にしきごい)がピンチだ-といっても、最近大人気の漫才コンビの話ではない。世界文化遺産・国宝姫路城を望む日本庭園「好古園(こうこえん)」(兵庫県姫路市本町)の池を彩るニシキゴイたちだ。魚介類感染症による大量死を乗り越え、再び数を増やしてきたものの、新たな「天敵」が出現。卵や稚魚を食べられる被害が続いている。コイを守ろうと、園職員や警備員があの手この手を繰り出すが、相手も生きるのに必死なわけで、有効策はいまだ見当たらないという。園側を悩ます天敵の正体とは-。(安藤真子)
好古園のニシキゴイは、姫山原始林を借景とした庭園「御屋敷の庭」にある大池に、もともと約300匹いた。
受難の始まりは2016年春。コイヘルペスウイルスが広がり、秋までに、ほぼすべて死んでしまった。翌年、コイの成体約200匹を放流し、ようやく大池にも彩りが戻った。「万事解決」と職員が胸をなで下ろしたのもつかの間、新たな敵に悩まされることになったという。
今月中旬の早朝、受難をもたらす天敵を探しに好古園を訪ねた。職員に案内してもらい、先輩記者と手分けして大池のそばに身を潜めていたが、それらしき生き物の姿は見当たらない。
いつも天敵を追い払うという警備員たちの出勤を待ち、出現スポットを教えてもらった。場所は、姫路城と好古園を隔てる堀沿い。目を凝らすと、木の上に黒い影が複数あった。「カワウ」だ。
職員の石山恵信さん(42)によると、4年ほど前から姿を現し、コイの稚魚を食べるようになったという。コイが小さい夏から秋を中心に大池に飛来するため、見つけ次第、警備員が長い棒で水面をたたいて追い払う。最近ではカワウが人に慣れたのか、効果があまり上がらないという。
カワウだけでも悩ましいのに、天敵は他にもいるという。コイの卵を狙うウシガエルだ。
コイは例年、4月下旬~7月下旬に産卵。石に体をこすりつけて産卵すると体が傷つき、感染症になりやすくなるため、もともと同園は職員が人工の水草を池の中に設け、産卵床を用意してきた。
しかしウシガエル対策も必要になり、2年前は人工水草の設置場所を変え、ネットで囲んで保護。結果は、隙間からウシガエルの侵入を許し、卵はほぼ全滅だった。
続く昨年、今度は完全に隙間をふさぐ作戦に出た。職員が池の水だけを通すことのできる木箱をつくり、産卵床から取り出した約200個の卵を移して保護。ふ化させて、体長10センチほどに成長するまで守り抜く計画だった。しかし、狭い環境でストレスを抱えてしまったのか、多くが育ちきらずに死んだ。無事だったのは、わずか36匹だった。
「3年目の正直」となる今年、木箱を複数用意し、卵を分散して育て、放流時期も見極めるという。
卵をウシガエルに狙われ、無事にふ化して稚魚まで育てても、今度はカワウがやってくる-。一筋縄ではいかないが、大池のコイは現在、約250匹に。石山さんや警備員たちは「鮮やかな色のコイを増やしながら、本来の300匹に近づけるのが目標。さまざまな課題を経験してきたので今年こそは」と意気込む。
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■難敵カワウ対策 体長30センチの魚も丸のみに 大量のふんや大きな鳴き声も
ウシガエルに比べ、なかなか有効な手だてが見つからないカワウ対策。近年は全国的にも個体数が増えているというが、どんな鳥なのか。
神戸どうぶつ王国(神戸市)の鳥類担当者によると、主に魚を食べ、体長30センチほどの魚であればのみ込めるという。日中は目がよく見え、色も識別できるため「赤など鮮やかな色のコイが狙われるのもうなずける」と教えてくれた。
被害はコイだけにとどまらない。群れで活動するため、木の上から大量のふんを落とすという。好古園のお隣、姫路城の管理事務所も頭を抱える。ふんで木が傷むほか、住民から大きな鳴き声を「何とかできないか」と苦情も寄せられる。担当者によると、姿を現したのは好古園での被害が始まった4年ほど前。姫山に巣をつくるようになったそうだ。
有効な対策はあるのか。姫路市鳥獣対策室は「個体を捕獲しても他の仲間たちが別の場所に移動し、新しい場所で問題を生みかねない」とも懸念する。