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「御産一件 天」の内容を読み解いた三角菜緒さん=姫路市立城郭研究室
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「御産一件 天」の内容を読み解いた三角菜緒さん=姫路市立城郭研究室
喜代姫の出産時の出来事を記した「御産一件 天」=姫路市立城郭研究室
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喜代姫の出産時の出来事を記した「御産一件 天」=姫路市立城郭研究室
【上】喜代姫を供養する五輪塔(右)。その隣に長女喜曽姫の五輪塔が寄り添う【下】景福寺=いづれも姫路市景福寺前
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【上】喜代姫を供養する五輪塔(右)。その隣に長女喜曽姫の五輪塔が寄り添う【下】景福寺=いづれも姫路市景福寺前
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ツバキの花に見立てた銘菓「玉椿」(伊勢屋本店提供)
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ツバキの花に見立てた銘菓「玉椿」(伊勢屋本店提供)

 奥さまは魔女-ならぬ「奥方は将軍の娘」。コメディードラマなら、さぞや旦那さんも藩士たちも頭が上がらない展開だろうと想像するが、江戸時代後期、姫路藩主の妻となった姫君がいた。11代将軍徳川家斉(いえなり)の二十五女・喜代姫(きよひめ)(1818~68年)だ。ただ、家康の孫で、多くの逸話が伝わる「播磨姫君 千姫」に比べれば、その名はあまり知られていない。現存する史料が少ないためだが、近年、藩士の日記が見つかったという。専門家が読み解いたと聞き、解説してもらいに足を運んだ。喜代姫って、どんな人?

 喜代姫が14歳のとき、後に姫路藩主となる酒井忠学(ただのり)の正室となった。

 姫路ゆかりの徳川家の姫と言えば、江戸幕府誕生前に池田輝政と結婚した家康の娘・督(とく)姫、そして本多忠刻(ただとき)に嫁いだ千姫がいる。特に、千姫は夫・豊臣秀頼と死別し、徳川家譜代の忠刻と結ばれた。波乱に満ちた戦国のヒロインは、姫路城で生涯最も幸せな時を過ごしたとされ、領民にも敬愛された。その千姫以来約200年ぶりに、姫路藩と徳川将軍家による縁組となったのが喜代姫だった。

 当然、酒井家から「特別な待遇」を受けたという。江戸にある姫路藩屋敷の敷地内に別邸が建てられ、喜代姫は生涯を通じて暮らした。幕府からも300石が与えられた。

 喜代姫に関する史料が少ない中、ある日記が2017年、東京の古書店で見つかった。姫路藩士が書き残した「御産一件(おさんいっけん) 天」。喜代姫が長男徳太郎を出産する前後の1836年4~9月の出来事を記してあるという。姫路市立城郭研究室の三角菜緒さん(37)が内容を読み解いた。

 日記によると、忠学は毎日のようにご機嫌伺いの使者を喜代姫に送った。懐妊や出産、お七夜といった折々に祝儀が催された。喜代姫の父・将軍家斉や次期将軍となる兄・家慶(いえよし)のほか、諸藩の大名に嫁いだ喜代姫の姉らも金やタイを贈った。喜代姫を通じ、姫路藩と幕府、諸藩との間に交流が生まれたことが分かる。

 「将軍家の姫君は大名家にこし入れした後も、あくまで『将軍家の一員』。公的に願い出にくい事柄について、将軍から内諾を得るための別ルートになった可能性もある」と、三角さんは指摘する。日記には、酒井家が祝儀を段取りするため、喜代姫の側近を介して江戸城の大奥とやりとりする様子も記されているという。

 喜代姫は忠学との間に、徳太郎と長女喜曽(きそ)姫を授かり、喜曽姫は忠学の後継・忠宝(ただとみ)の正室となった。生涯を通じて江戸で暮らし、姫路藩を支えた喜代姫は、動乱の幕末・維新期、難を逃れるために姫路へ向かった。その道中、滋賀県で病死。50歳だった。

 生前、姫路の地を踏むことはなかったが、姫路と前橋市にある酒井家の菩提(ぼだい)寺に墓が1基ずつある。姫路城の西にある景福寺(姫路市景福寺前)の境内には、喜代姫と喜曽姫を供養する五輪塔が並ぶ。「残念ながら、2人にまつわる言い伝えは何も残っていません」と、住職の青山泰立(たいりゅう)さん(55)。五輪塔の前で、ベールに包まれた将軍の娘に思いをはせてみては-。(地道優樹)

     ◇     ◇

■「玉椿」はゆかりの和菓子 伊勢屋本店、婚礼の頃に誕生

 将軍の娘から姫路藩主の奥方となった喜代姫ゆかりの菓子が姫路にある。伊勢屋本店の「玉椿(たまつばき)」だ。しっとりとした黄身餡(あん)を薄紅色のぎゅうひで包み、ツバキの花に見立てた和菓子で、姫路を代表する銘菓として知られる。

 同社によると、玉椿は、喜代姫と酒井忠学の婚礼の頃に誕生した。姫路藩家老、河合寸翁(すんのう)に命じられた五代目伊勢屋新右衛門が、江戸で修業後、姫路に持ち帰った菓子の一つという。

 原料として、希少で「幻のあずき」とされる白小豆(しろしょうず)を使用。香り豊かな風味と上品な甘みがあり、皮がやわらかく口当たりが良い。

 中国の故事によると、玉椿には長寿や子宝を願う意味がある。同社は「婚礼の菓子は鶴と亀が一般的だが、姫路藩と将軍家が幾久しく栄えることを願って『より凝ったものを』とつくったのでは」とみる。

 5個734円など。同社西二階町本店TEL079・288・5155

(段 貴則)

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